心と経営の力学 【No.15】 「動き」の観点でムダ取りして、生産性向上を実現する手法
国をあげて生産性向上が叫ばれていますが、この実現のために付加価値をあげる方法は大きく分けて次の3つとなります。
(1)商品・製品・サービスそのものの付加価値を高める。
(2)顧客に付加価値を分かり易く伝えて、今より高く買ってもらう。
(3)社内のムダを徹底的に排除して業務効率を高める。
(1)と(2)については、最終的な判断が顧客に委ねられるため、その成/否レベルや実現タイミングは自社だけでコントロールするのが難しい側面があります。
一方、(3)のムダ取りについては自助努力だけで効果を上げることが可能です。とくに、これまで「ムダ取り」の視点で業務を見直してこなかった企業であれば、なおさら大きな効果が期待できます。さらに、ムダの基準やムダを見つける視点が社内で共有されれば、多くの社員を巻き込んだ活動に展開することも可能です。
なお、設備やシステムの導入、改良によって社内業務の効率化を実現する方法もありますが、ムダ取りの視点で業務を見直すことで、導入する設備やシステムの内容が大幅に変わることもあります。このため、先ずはムダ取りを優先しておこなうことをお勧めします。
それでは、具体的にどうやってムダ取りを実施していくかですが、5Sでは通常次の7つのムダに着目します。
【7つのムダ】
①作りすぎのムダ(必要になる前に作る)
②手待ちのムダ(能率の悪い作業割当てや作業順序による)
③運搬のムダ(仕事の流れがダイレクトでもスムーズでもない)
④加工のムダ(部品に必要以上の加工を施す)
⑤在庫のムダ(いま必要であるよりも多い)
⑥作業者の動作のムダ(価値に貢献しない)
⑦不良のムダ(作業のやり直しを生み出して、さらなるムダを作る)
基本的には、これらの視点でムダを見つけて排除していけばよいのですが、これだけあると何から手を付けてよいかイメージが湧かないという方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、ムダを見つけやすく、成果も出しやすい「運搬」の視点でムダを取る方法について説明します。ただし、今回は「運搬」をもう少し広い視点で"動き"と捉え、他の6つのムダも若干包括させながら、さらにムダを見つけやすくしていきます。
さて、会社内の活動を"動き"という観点で捉えると、基本的に"動き"がない時、つまり「人」「機械」「モノ」「情報」が止まっている時は、付加価値(お金)を生み出していない事に気付くと思います。なお、ここでいう付加価値とは顧客が知覚してその価値を認め、得心してお金を支払ってくれる対象の事です。
そう考えると、ムダ取りの視点1)は、動かないモノをゼロにする、となります。
次に、『動き』の中でも本当に付加価値(お金)を生んでいる動きに着目し、それ以外は極力排除していきます。そこで、ムダ取りの視点2)は、動きを最小・最短化する、となります。さらに付け加えると、視点3)として、動きを最小コストで実現する、視点4)として、スムーズに動かす、がありますが、はじめのうちは視点1と視点2を中心にムダを探してみてください。
以上を整理したのが、次の表となります。
あとは、この表を参考にしながら、実際に現場や職場に行って付加価値(お金)を生んでいないムダが、貴社の中にどの程度あるかじっくり観察してみます。
・人が動き回っていないか?
・目を閉じて機械の(加工)音が聞こえてくるか?
・在庫や仕掛品が山積みされているところがないか?
・・・・ etc
観察の結果、カイゼンの余地が大きなムダが見つかれば、原因を把握した上で、ムダ取りの視点1~視点4に沿って解決策を考えていきます。なお、この時に重要なのが「ゼロに出来ないか?」という発想で解決策を検討することです。
運搬であれば、AとBの距離をできるだけ近づけるという発想ではなく、まず、AとBの距離をゼロにすることこからはじめ、不都合があれば少しずつ離していくという発想です。歩いている作業者がいればゼロに出来ないかと考えます。このように、大胆に発想することで斬新な解決策や、効果の大きな解決策が見つかることが多々あります。
例えば、ある金属加工会社L社では、5人の段取り技能者が別個に、加工機の段取り中に別の部屋に移動して刃物の研磨作業をおこなっていました。これを、外段取り化して1人の技能者が専任で研磨作業をおこなうようにしたことで、ゼロにならないまでも技能者の移動距離と機械の停止(段取り)時間を最小化することができました。
また、ある精密機器会社S社では、社外に借りていた3つの製品倉庫を返却し、工場から顧客に直に発送できるような生産方法と管理方法に切替えたことで、年間で数億円単位の効果をあげました。
いかがですか "動き"という観点で社内を観察することでムダを見つけることができそうでしょうか?慣れてくると、現場や職場のあちこちに沢山のお金(ムダ)が落ちているのが見えてくるかもしれません。
ぜひ、試してみてください。