心と経営の力学 【No.17】 生産性を高めるに、絶対に社内で共有すべき「ムダ」の概念
生産性を高めるために、前回、前々回と、どんな視点を持てばムダを見つけ易いか説明してきましたが、同様の視点を持っていても、実際のムダ取りの効果は企業によって大きな差が生じます。これには、もちろん実行力や、どの程度の社員が活動に積極的に参加するか?といったパワー的な要因もあります。
しかし、それ以前にもっと根本的な要因があります。何だと思われますか・・・?
それは、「何をムダと捉えるか」という概念の差です。
もう少し詳しく説明します。下の図をご覧ください。
この図には、(最上部に)モノを顧客視点で捉えた時の構成要素と、(中央部に)モノを当社視点で捉えた時の構成要素を記載してあります。そして、そこにはギャップがあります。
ずばり 「ムダ」とは、この図中の、②CL+③MLとなります。つまり、社内では必要だが顧客にとって価値のないモノである「顧客にとってのムダ」と、社内で必要のないモノである 「社内のムダ」を足したモノです。
このムダの概念(②CL+③ML)が、どれだけ社内で共有され、浸透しているかによって、ムダ取りの効果に大差が生じてきます。とくに、②CL「顧客にとってのムダ」については、これを真摯にムダと受け止め、愚直にカイゼンに取組もうとする企業と、そうでない企業に分かれます。
これまでの経験上、「段取り」「部材や製品の工程間移動」「在庫の最小化」・・等、といった生産やモノの動きに直結する活動については、比較的多くの企業で、既にこれらを「社内のムダ」と捉えて極力小さくすべき、という認識をもっています。また、その認識がない場合でも説明すれば納得して、カイゼンに取組もうとします。
一方、「各種伝票の発行」「生産計画会議・フォロー会議」「営業会議」・・等、といった活動は、そもそもムダだという認識を持っている企業が極めて少ないように見受けられます。また、説明しても「必要なんだからカイゼンのしようがない・・・」と抵抗感を示したり、頭では理解しても根底から納得していないためムダ取りの対象としてカイゼンに取組もうとしない企業が多くあります。
たしかに、これらの業務は何れも社内では必要です。しかし、冷静に顧客の立場にたって考えれば、何ら付加価値を生んでいない業務である事に気づくと思います。もう少し実感が湧くように逆の立場で考えてみましょう。例えば、サプライヤーAから調達している部材があって、この購入価格の中に前述の各種の伝票発行や会議のコストが大きな割合を占めていたら、よろこんで購入する気になるでしょうか?他のサプライヤーを探したくならないでしょうか?
このため、「社内では必要であってもムダを生んでいる業務がある」という強い自覚を持って、社内業務を再確認する必要があります。きっと、まだ多くの業務の中に最小化を目指すべきムダが眠っていることに気づくと思います。
また、この自覚をもって愚直にムダ取り活動を続けていると、自分が携わる業務に関して「この業務って本当に必要なの?」「これって本当にお客様の役に立つの?」といった疑問を持つ社員がだんだん増えてきます。そうなれば全社的なムダ取り活動も加速し、図の最下部に示した状態を高いレベルで実現しやすくなります。
なお、「顧客にとって価値あるモノ」についても、その価値観が社内で共有されていないと、どこまでが①CV「付加価値」で、どこからが②CL「顧客にとってのムダ」なのか、社員によって判断が分かれることになり、活動の足並みが揃わなくなります。このため、自社が提供する付加価値をできるだけ明確に定め、社内の共有度・浸透度を高めることも重要になってきます。これについては、また機会をみてご説明します。
まずは、貴社のどの業務が、②CL「顧客にとってのムダ」に該当しそうか再確認してみてください。
ポイントは、これらの社内業務が最終的に顧客が知覚できるモノに繋がるか?/ 繋がらないか?です。