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心と経営の力学 【No.19】 生産性を最高に高める合言葉「本当に無くせないか?」

昨年末に、「デンソー」と「日立」が共同で発表した「自動ハンコ押しロボット」が大きな反響を呼びました。「画期的なロボット」だと肯定的な印象を持った人が多数いた一方で、「そもそもハンコを押す行為自体を止めればいい」という意見を持った人も一定数いたようです。グローバル化やデジタル化が進展するなかにあって、ハンコを押す行為自体に時代遅れ感があることを考えれば批判的な意見があるのも頷けます。

なお、昨年2019年5月の「デジタル手続き法」の当初案には、押印の廃止が盛り込まれましたが、3,000億円の市場を有する印鑑業界からの反発が大きく、最終的に条項が削除された経緯があります。ちなみに、お隣りの台湾では早々と「印鑑」と「手書きの電子サイン」の両方が可能になっています。

このような経緯を踏まえれば、当該ロボットの販売はビジネスとして成立するように感じますし、話題作りや他の作業の自動化を促すといったマーケティングの観点からも、よいのではないかと思います。

さて、ロボットの話題はこのへんにして、ロボットの是非を問う議論のきっかけとなった「今あたり前のようにやっている作業や習慣」を"疑う"視点は、生産性を高める上でとても重要となります。

今回のコラムでは、これに関連して、業務や工程を見つめ直す上で役立つ「ECRS(イクルス)の原則」についてお話しします。
 このECRSは、次の英語の頭文字をとったもので、検討する重要度も順序もこの並び順となります。
 1)Eliminate (排除:無くせないか?)
 2)Combine (結合:一緒にできないか?)
 3)Replace    (交換:置き換えできないか?)
 4)Simplify    (簡素:単純化できないか?)

それでは、個々の原則(視点)についてもう少し詳しく見ていきましょう。なお、何れの視点も、本来の目的や提供価値に照らして考えて、これまで当たり前にやっていたこと、つまり社内の常識を徹底的に疑っていきます。

1)Eliminate(排除:無くせないか)
 4つの原則の中でも最も重要な視点となります。まず、はじめに普段の業務や工程を「本当に無くせないか?」「ゼロにできないか?」という視点で検討します。

冒頭のハンコの例でいえば「そもそも、ハンコを押す習慣(法律)自体を無くすことができれば」、それに付随した業務(ハンコや付随品の購入、保管、朱肉の補充・・等)まで含め、多くのコトを無くすことができます。このため、4つの視点のなかでも最も効果は大きくなります。

他にも、こんな事例があります。加工機M2に投入する前に、定尺の軸を少しカットして短くする工程がありました。この原則に照らして、(現)担当者のAさんは「そもそも本当にこの前加工が本当に必要なのか?」と疑問を持ちました。そこでAさんは、作業の指導を受けた前任のBさんに理由を尋ねました。Bさんの答えは「前々任のCさんの指導通りに作業をしていた」ということだったので、次に前々任のCさんに理由を確認しに行きました。その結果、以前の加工機M1は仕様上、少しカットしないと加工機にセット出来なかったことが分かりました。Aさんは、もしかすると現行の加工機M2なら、そのまま加工できるかもしれないと考え、加工機の仕様を調べると、前加工が不要だった事が分かりました。

このように、普段当たり前にやっている作業の目的や付加価値をあらためて確認したり、考えたりしながら、本当に必要か?疑ってみることで、無くせる作業を見つけやすくなります。

その他の具体例を参考に示します。
 【具体例】
  ・死蔵在庫品の廃棄や、長期未使用金型の顧客への返却によって、外部倉庫を廃止する。
  ・ケースのネジ固定を廃止して、フック方式にする。
  ・毎日実施していた会議を廃止して、10分の朝礼と週一の会議にする。
  ・紙の議事録の配布を廃止し、共有フォルダーへの保存とメール配信に切替える。
  ・過剰なサービスや、機能の追加を廃止する。

2)Combine (結合:一緒にできないか)
 次に「類似した作業を一緒にできないか?」「別個でおこなっている作業を同時に進められないか?」という視点で検討します。

冒頭のハンコの例でいえば、インクが一緒になった「シャチハタ」をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。ハンコと朱肉を一緒にすることで、捺印作業の効率を大幅に高めています。

他にもこんな事例があります。顧客との打合せに3D-CADを持参して、打合せしながら、その内容を踏まえてその場でどんどん変更していく。会議をしながらホワイトボードに議論した内容と結論を記載していき、そのまま議事録にする。

このように個々の作業や工程だけではなく、一連の業務が完了するまでの全工程を俯瞰することで、一緒にできる作業が見つけすくなります。

その他の具体例を参考に示します。
 【具体例】
  ・複数の作業者が個別に行っていた刃物の研磨作業を、専任者を決めて纏めて行う。
  ・金型のダイセットを共有し、入れ子方式の金型にする。
  ・各営業所や各部門の報告を個別ファイルから、全社で1つの共有ファイルにしてシートやページで分ける。
  ・移動時間に日報や議事録を作成する。
  ・出張の際に、近隣の顧客にも合わせて訪問する。

3)Replace (交換:置き換えできないか)
 Eliminate(排除)、Combine (結合)といった方法が取れない場合、「他の方法に置き換えられないか?」「他のモノで代用できないか?」という視点で検討します。

冒頭のハンコの例でいえば、そもそも本人であることの認証が目的なので、印鑑を止めて、手書きサインにすることをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。

このReplaceに関連した、こんな逸話を何年か前に聞いたことがあります。
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 アメリカのNASAは、宇宙飛行士を最初に宇宙に送ったとき、無重力状態ではボールペンが思いどおり書けずに記録が十分出来ないことがあることが分かった。この問題を解決するため、NASAの科学者たちは、10年の歳月と120億ドルの開発費をかけて研究を重ね、ついに無重力でも、上下逆にしても、どんな状況下でも書けるボールペンを開発した。
 一方、その頃、ロシアでは鉛筆を使っていた。
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 この逸話からも分かるように、本来の目的に立ち返ることが重要ですね。

その他の具体例を参考に示します。
 【具体例】
  ・ケースの固定方法を、ネジから接着に変える。
  ・移動時間が少なくなるように、訪問順序を入れ替える。
  ・本社と支社間、顧客への出張会議を、テレビ会議に変更する。
  ・材料の自社調達を廃止し、顧客からの支給に切替える。
  ・付加価値の低い一部の業務を外注化する。

4)Simplify (簡素:単純化できないか)
 最後に、「もっと単純化できないか?」「簡単にできないか?」という視点で検討します。

冒頭のハンコの例でいえば、印鑑を止めて、指紋認証や虹彩認証にすることをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。成田空港でも虹彩認証で入国手続きが出来るようになっていました。

3)のReplace との区別が難しいかもしれませんが、あくまで生産性向上のためのカイゼンを図ることが目的なので、あまり難しく考えずに、もう一度、この視点で本当にカイゼンできるコトがないか検討してみてください。

その他の具体例を参考に示します。
 【具体例】
  ・テンプレートを決めて、特定項目に入力することで資料が完成するようにした。
  ・一か所にデータを入力することで、他のシートやデータベースにも同じ情報が自動入力されるようにした。
  ・複数のアイテムの商品タグを統一した。
  ・会計システムに、レシートや領収書の画像をアップするだけで、自動記帳と仕分けができるようになった。(会計ソフト:Freee)
  ・テレビ会議に必要なPCのセッティングが、アドレスを1クリックするだけで自動でできるようになった。(Skype→ Zoom)

以上が4つの視点になりますが、カイゼンを検討するイメージは出来たでしょうか?

最後に重要なポイントを2つおさらいしておきます。1つ目は、その作業や工程の目的と付加価値に照らし合わせて検討すること。2つ目は、最初のElimintateで本気で「無くせないか?」深くふかく、愚直に検討すること。ここで深く考えることで、仮に完全に無くせなくても、2)~4)の視点に関するカイゼン案が出やすくなります。

ぜひ、試してみてください。