心と経営の力学 【No.22】 外部環境の変化を、社内変革のチャンスに変える
新型コロナウィルスの拡大を抑止するために、先週末に安倍首相より出された「小中高の一斉休校の要請」には、多くの方や企業が困惑していると思います。
私は専門家ではないので、この施策の有効性や要請の是非について適切な見解を述べることはできませんが、今回の件が経営的な視点において重要だと感じる点があるので、ここでお話ししたいと思います。
まず、結論からお伝えすると、今回の安倍首相の決断は、間違いなく多くの国民に短期間で変化を促す機会をもたらしたということです。
もちろん、多くの混乱を招き、未だ解決されていない問題が山積していることも確かです。しかし、一旦そういったことを脇に置いて「変化」という点に着目すれば、「関係者とトコトン話をしたり」「無理だと諦めていたことを再検討したり」「考えもしなかったような事を試みたり」・・と、これまで経験のないような濃縮した時間を過ごした、あらたなチャレンジに取り組んでいる、といった方も沢山いるのではないでしょうか?
誤解を恐れずに言えば、今回のような大きな政治的決断や自然災害は、否応なしに我々に変化を迫ります。これまでの、常識や立場を一瞬で変えてしまうほど大きな影響を与えることも珍しくありません。しかし一方で、変化に対する柔軟な対応力や知恵を獲得する機会も提供してくれます。
今回の、新型コロナウィルスの件に対しても、古くは「ペスト」、最近であれば「SARS」といった事態に対処してきたからこそ、うまく対応できている部分も多いと思います。
他方、経済活動において振り返ってみても、2008年の「リーマンショック」を乗り越えてきたからこそ、2011年に起きた「東日本大震災」や、その後の「タイの大洪水」に対応できた企業も多いのではないでしょうか?
例えば、私が当時所属していた日本電産グループでは、「リーマンショック」が起きた時に、雇用を守るために一早く全社員の減給を決め(利益回復時には速やかに給与を元に戻し、さらに減給分は給与や賞与等で割増し返還することを事前に約束)、また売上が半分になっても利益を確保できる体質をつくるために「WPR(R)」(ダブル・プロフィット・レシオ)と呼ばれる活動を全社的に展開して社内のムダの排除やラインの効率化を徹底的に推進しました。実際のところ、社内ではいろいろな混乱が起こりました。それでも、それを乗り越えて「変化」したからこそ、その後の大震災や洪水にも対処することが出来ました。
ここで、少し話しが変わりますが、私は数年前から脳科学を学んでいます。人の脳というのは本当によくできていて、ある動作や刺激反応モデルについて脳内の神経回路が接続(以下:脳内接続)されはじめると、同じ事を繰り返す度にその接続が強化され、次第に意識しなくても自動的に反応出来るようになってきます。これは皆さんが、いま日常的に車を運転する時と、教習所で運転を習い始めた時を比べると容易に想像できると思います。
同様に、企業内においても、一連の社内活動を通して個々の社員の中に多くの脳内接続が形成されていきます。
一方で厄介な面もあり脳内の接続が一旦完了すると、コトの良し/悪しとは無関係に接続を変えるのがとても難しくなります。脳は基本的に変化を嫌います。
昔から、良い習慣を持つことや、よい社風を創ることが重んじられる理由はここにあります。
一旦できあがった脳内接続に変更を加えるには、幾つかの方法があります。
例えば、ある接続を強化したい場合は、「ストレッチ × 反復」が効果的だと言われています。つまり、これまでの限界を少し上回る目標やノルマを設定し、それを達成するための行動や訓練を繰り返していくことで、限界レベルを次第に引き上げていく方法です。変化の幅は小さいですが、「塵も積もれば山となる」という諺のとおり、継続することで最終的に大きな変化をもたらします。今や世界的な言葉にもなった「カイゼン」に近い活動です。ちなみに、トヨタの根底にある強みは、この行動をあらゆる部門や社員が自発的に起こせる社内DNAにあると考えています。
それでは、これまでの行動様式や習慣(脳内の接続)を改め、大きく転換するには、一体どうしたらよいのでしょうか?
カギとなるのは、「強い意志」と「環境変化」です。
なかでも、今回の様に外部の力によって大きな「環境変化」がもたらされる時は、否応なしに行動せざるを得ないので、脳が言い訳をし難くなります。
こういった観点から考えると、今回の新型コロナウィルスの件は、会社に大きな変化をもたらす機会にもなり得ます。
例えば、「これまで見送ってきたテレワークを推進したり」、「誰かが休んでも仕事が回るように社内の仕組みを整備したり」・・と。
人間は、他の動物と違って、環境をどうのように知覚するかを自分で選ぶことが出来ます。また、協働力にも優れています。
いろいろと大変な面はあるでしょうが、ぜひ今回の件をチャンスと捉え、変化を生み出すことにチャレンジしてみてください。