心と経営の力学 【No.29】 見えない「不安」に対処する唯一の方法とは?
緊急事態宣言が全国に拡大し、経済活動がますます停滞する中で「売上の減少」、「資金繰り」「雇用の維持」・・等の、様々な不安を抱えている経営者の方も多いと思います。
また、この先を誰も見通せないだけにその不安は募るばかりでしょう。
一方で、不安が増えていくと思考や行動が委縮してしまい、知らず知らずのうちに視野が狭くなり、視座も低くなりがちになります。細胞学の研究からも不安や恐れのスイッチが入ると、逆に安心や喜びのスイッチが切れることが分かっていて、これが思考や行動が委縮される原因となります。
それでは、この不安を一体どうやって解消すればよいのでしょうか?
それは、不安の原因を書き出すことです。
「なんだ、そんな事か」と思われるかもしれませんが、不安を見えるようにすることで、客観視できるようになります。感情ではなく、理性で対処できるようになります。
なお、普段私たちは自分の頭の中で起きていることを全て把握しているように錯覚していますが、意外と意識出来ていないことが多くあります。脳科学の研究では、私たちの思考や行動の95%以上が通常はアクセスしていない領域で自動的(無意識)に行われていることが分かっています。
それでは、実際に不安を列挙していく方法を2つご紹介します。
1つ目は、幾つかの重要な項目(視点)を予め決めて、関連する内容を上げていく方法「フレームワーク法」です。
2つ目は、とにかく思いつくままに列挙していく方法「ブレーンストーミング法」です。
夫々の方法について、もう少し詳しく説明します。
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1)フレームワーク法
予め決めた特定の視点に沿って、関連する内容を列挙する方法です。
例えば、代表的なものだと「5W2H」(What:何を、Why:なぜ、Who:誰が、Where:どこで、When:何時、How:どのように、Howmuch:どのぐらい、いくらで)や、「QCD」(Quauilty:品質、Cost:価格、Deliverly:納期)などがあります。
この方法は、漏れや重複を防ぎながら効率的に不安を挙げることができます。経営リスクの検討や、商品開発時のリスク分析にもこの方法が用いられます。
今の状況下で、経営全般に関わる不安を列挙するのであれば、先ずは「人・金・モノ・情報」の観点で、考えてみるとよいでしょう。
2)ブレーンストーミング法
こちらは、先ほどのフレームワーク法とは対照的に、思いつく事をどんどん挙げていく方法です。通常は、複数人で行いますが、1人でも構いません。
とにかく、「いま不安に感じている」ことを、どんどん書き出していきます。
例えば「来月A社から受注がこなかったどうしよう?」、「B社から部品が入荷しなかったどうしよう?」、「従業員が感染したらどうしよう?」、「家族が感染したらどうしよう?」、「妻が感染したら子供の面倒は誰が見るのか?」・・・・等々、仕事のことはもちろん、緊急事態なのでプライベートな内容の含めても構いません。また必要に応じて見やすいように、あとでカテゴライズ(分類)してもよいでしょう。
ポイントは、どんな些細なことでもよいので一旦全て書き出す(吐き出す)ことです。
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不安は不安を呼びます。雪だるま式に大きくなっていきます。先ほど、私たちの思考の95%以上が通常はアクセスしていない領域で行われていると話しましたが、この水面下で行われている処理(会話)に優劣はありません。何れの不安も「オレの不安が一番大きい、最優先で取り組むべきだ!」と主張し合っています。そして、感情と理性、これまでの経験などによって、たまたまその時に重要だと自動判定された主張(不安)だけが、意識的に感じ取られます。
このため、時間の経過や状況に応じて、意識される不安も刻々と変化してきます。そして、訳けの分からない底知れぬ不安へと変貌していきます。感情的な部分が多くを占めるようになるからです。
だからこそ、一旦全ての不安を列挙することが有効なのです。また、新たに不安が湧いてきたらどんどん書き足していくことも重要です。なお、スマホのメモ帳にどんどん書き足していく方法でも構いません。
不安を見える化、リスト化しておくことで、理性的に対処できる部分が増えてきます。対策を冷静に検討できるようなります。妥当な優先順位も付けられるようにもなります。これまで培ってきた見識によってよりよい判断ができるようになります。また、他人に相談したり、対処を任せたりすることもできるようになります。
見えない敵とは闘えません。
ぜひ、不安を見える化して、この難局を共に乗り切っていきましょう!
【追伸】
差し障りのない参考資料として、私が2006年に中小企業診断士の試験にチャレンジした時の「不安リスト」をこちらにアップしました。
あまりスマートな資料ではありませんが、これを作るだけで不安が大きく和らぎました。
先ずは「こんな程度でもよいのか」「こんな些細な不安でもよいのか」等、少しでも何かの参考になれば幸甚です。