心と経営の力学 【No.36】 生産性が低い企業の共通点とは?
「生産性」とは、簡単に言えば「ある一定期間における変化の度合い」と言い換えることができます。
例えば、ある投入資源(材料・設備・人材)30を使って、1ヶ月に製品を100個生産する企業Aの生産性を100とした場合、同じ量の投入資源を使って1ヶ月で50個しか生産できない企業Bの生産性は50となります。
他方、経営上の生産性を評価する上で重要な点は「評価項目(最終アウトプットに繋がる変化がどの程度生じているか)」と「評価する時間軸(期間)」をどのように設定するか?という点です。
貴社においては、この設定が明確になっているでしょうか?また、社内で共有されているでしょうか?仮に、この点を曖昧にしていると、一見生産性が高いように見えても、実は経営上の生産性が低いなんてことになり兼ねません。
例えば、先ほどの100個の製品を生産した企業Aの販売が1ヶ月のあいだ全くなければ、当月の企業Aの経営上の生産性は0(ゼロ)という事になります。逆に、企業Bが50個を完売したのであれば、企業Bの経営上の生産性は50ということになります。
在庫が罪悪呼ばわりされたり、スループット会計が重視されたりする理由はここにありますが、経営者と現場の間で評価項目や評価の時間軸が共有されていなければ、現場がどんなに頑張って生産しても、経営上の生産性は0ということになります。
同様に、社内の打合せで前週に決めた宿題事項が、今週になっても何も進捗していなければ、その間の経営上の生産性は0のままです。また、顧客や協力工場、サプライヤーと打合せをしても1週間後に何の進展もなければ、やはり経営上の生産性は0のままです。
つまり、ある期間において最終結果に繋がる変化が全く生じていなのであれば、その間における経営上の生産性は0(ゼロ)ということになります。
経営者やリーダーの方は、この「経営上の生産性がどの程度あるのか?」いう点を強く認識する必要があります。とくに、生産に直結しない業務活動や打合せというのは、投入した資源の量も、アウトプットも見えにくいだけに注意が必要です。
それでは、こうした活動の生産性をあげるためには、何が必要なのでしょうか?
簡単に言えば、「見える化」と共有です。
ここで目を瞑ってみるとよく分かりますが、途端に私たちは殆ど何もする事ができなくなります。それもそのはずで視覚健常者の場合、殆どの状況において視覚からの情報が約9割を占めると言われています。そして、残りの約1割を聴覚や触覚などからの情報により補って、総合的な状況判断をしたり、情報を記憶したりしています。
さらに、人は体験によって獲得した以外の情報を忘れる生きものでもあります。
この、あたり前と言えば、あたり前の事実を忘れ、口頭だけで伝える、指示する、打合せする、もしくは打合せした内容を記録しないケースがあまりにも多いように見受けられます。
9割の情報を目から取り入れている事や、脳が時間と共に多くの情報を忘れていく事を考えると、口だけで伝えるというのは、あまりにも非効率だと思いませんか?
日常業務の確認や連絡事項、その日のうちに完了するような簡単な業務ならともかく、ある期間をかけて取り組む事や、何度も繰り返して伝える必要がある事を、口頭だけ伝えいくというのは無謀とも言える行為です。
生産性の低い企業の特徴のひとつに、この文章を作る、残す、共有する、再利用する、という習慣(企業文化)がない、あるいは極端に少ないという共通点があります。
もし貴社において、「何度言ってもまったく行動しない」、「打合せが堂々巡りになって結局何も決まらなかった」「打合せで決まったことがなかなか実行されない」・・ということが多ければ、まずはこの文章化が適切に行えているか、チェックしてみるとよいでしょう。生産性を高めようと思えば、文字や文章にする企業文化が必須となります。
それでは、いったいどんな情報を文章の中に含めればよいのでしょうか?ある期間内に変化に繋げる行動を生むためには、基本的に次の7項目が必要となります。
1)なぜ、やるのか?
やる目的や意義が見いだせないと行動に繋がりにくくなります。
「顧客にとって」、「会社にとって」、「部門にとって」、「自分にとって」・・、どんな意義やメリットがあるのかを明確にします。
2)何をやるのか?
自分の考えや行動の必要性は訴えているものの、「それで具体的に何をやりたいですか?」と質問すると、明確な答えが返ってこない事が意外と多いものです。
なお、カイゼンの場合は「何を → 何に変えるのか?」 の2つの情報を明確にする必要があります。
3) どのように、やるのか?
実際に決めたことを実現する手段について、明確にします。どこまでブレイクダウン(詳細化)するかは、状況によっても変わるでしょうが、少なくとも最初のアクション(行動)を実際に起こせるまで、具体化する必要があります。
例えば、「売上を2割アップするために新規顧客を開拓しよう」と決めただけだと、具体的な行動には繋がりにくいですよね。
4)誰がやるか?
よほど興味・関心や危機感がなければ、主体性をもって自発的に行動することは難しいでしょう。
一方で当事者意識のない仕事は、殆どの場合そのまま放置されます。このため、”誰”の責任でやるかを明確にする必要があります。
5)何時までにやるか?
期限を決めることで、他の業務との優先順位を考えたり、関係者との調整が本気で始まります。気持ちも引き締まります。
これはお客様から「明後日までになんとか納品して欲しい」とお願いされた場合と、「来月の納品でいいよ」と言われた場合で、そこに向かう意識の強さの違いを考えれば、容易に想像できると思います。
なお、誰かと調整しないと決められない、何かを調べないと全体のボリュームが分からないのですぐに期限が設定できない、というケースもよくあります。この場合、先ずは「Date to Date」(期限を設定する、期日を決める)とよいでしょう。
6)評価軸を決める
何をもって変化の度合いをチェックするかを予め決めておきます。この時のポイントは、最終結果ではなく、最終結果に繋がる行動量を客観的に計数することです。例えば、新規顧客開拓数(最終結果)ではなく、その手前の見込み顧客のリストアップ数(行動量)を設定します。
最終結果だけの評価だと、どの程度進捗が図られているか、このままでうまく行きそうか、将来的にどの程度結果に繋がりそうか、といった情報が把握しにくいので必要なリカバリができません。
また、最終結果はその時々の状況の影響も受けるため不確実性も高くなります。この点、行動量であれば、客観的な評価が可能になります。
7)実行にあたり障害になるのもがないか?
あらたな取組みを行う場合、いま抱えている業務の中にそれが追加される、というケースが殆どだと思います。そして、この場合、障害が発生する事が多くなります。
例えば、「今の仕事が間に合わなくなるけど、どうするのか?」「優先順位はどうするのか?」・・といった内容です。この点を、曖昧にすると実際の行動に繋がらなかったり、現状の業務に支障が出たりします。
このため、予め障害の回避策を盛り込んでおくか、業務を依頼する際に想定される障害について十分に意見交換する必要があります。
以上、文章化するにあたり、その中に含めた方がよい7つの情報について説明してきましたが、如何でしたでしょうか?
文字や文章にする過程で、曖昧な点に気付けます、不足している点に気付けます、矛盾点にも気付けます。また、伝える過程でディスカッションも活発になります、記憶にも記録にも残ります、チェックやフォローもしやすくなります。
一方で、口頭だけの曖昧な指示や不毛な打合せは、持続的な行動に繋がりにくく、経営上の生産性を著しく低下させます。
貴社では、文字や文書にする習慣、企業文化はあるでしょうか?
生産性を向上するために、社内の活動を一度見直してみるとよいでしょう。