心と経営の力学 【No.38】 判断を間違えないために有効な、2つの質問とは?
コロナウイルスに対し、感染以外で注意が必要な事に、情報の混乱によって判断を誤ることがあります。
少し前ですが、日経新聞の4/6日のコラムにも『コロナで注意「インフォデミック」とは?』と題して、情報の氾濫への注意が呼び掛けれていました。ちなみに、インフォデミックとは、Information + Epidemic(情報の氾濫・流行)を意味する言葉です。
他方、企業内の情報伝達においてもメールや携帯電話でのやり取りが当たり前となり、ビジネスチャットを導入する企業も増えました。コミュニケーションの効率が格段にアップし、俯瞰して情報を確認できたり、後で見返したりすることも可能で、大変便利になったなあと思います。
一方で、この利便性によって弊害がもたらされる事も多くなっていると感じます。
それは、情報に頼りすぎて、3現主義(現場・現物・現実)の重要性が薄らいでしまい、誤った判断を下した入り、問題解決を長引かしたりしている点です。
先日も、J社の会議で「不具合対策」が議題に挙がった際に、役員4人が30分以上も「ああでもない、こうでもないと」議論を続けていました。そこで、不良の現物と拡大鏡を会議室に持ってくることを提案、たった5分で正しい現状認識と、効果が出そうな対策案が幾つか挙がりました。
この他、U社から「半年分も抱えている過剰在庫を何とか減らしたい」と相談を受けました。手持ちの資料を送付してもらい、電話で話を聞きましたが今一つ原因が分かりませんでした。そこで、現場を見させてもらうことにしましたが、現場を見た瞬間、直ぐに根本原因に気付くことができました。
皆さんにも、同じような経験はないでしょうか?
例えば、新しい取引先を探すのに、「ホームページではとても良さそうだったけど、実際に訪問してみるとガッカリした」、逆に「会社案内はパッとしなかったけど、訪問してみると社員は礼儀正しく、きびきびと働き、清掃も隅々まで行き届いていた」・・・等々
もちろん、判断する内容の重要性や、その時々の事情にもよるでしょうが、判断の生産性をあげるためには可能な限り、3現主義(現場・現物・現実)に立ち返ることをお勧めします。とくに「どうも納得がいかない」、「理解が深まらない」、「議論が噛み合わない」といった状況では重視すべきでしょう。
一方で、どうしても3現主義(現場・現物・現実)が難しい場合、初動の決定や行動の選択肢を絞るために、今ある情報から妥当な判断をしなければならないというケースも多々ありますよね。
こうした状況の中で、正しい判断をするためには、一体どんな観点が必要なのでしょうか?
大きくは分けると次の2つがあります。
1つ目は、「発信相手のエゴが情報に含まれていないか?」
2つ目は、「受け手の自分が正しく情報を捉えているか?」
まず、1つ目ですが、No23のコラム「生産性を高めるために、最小化すべき6つの特質とは?」にも書きましたが、人間には、自己を守るために次の6つのエゴがあります。このため、意図する、しないに関わらず伝えられる情報には自己防衛的(主観的)の要素が少なからず入っている事が多くなります。特に、自身にとって都合の悪い情報や、逆に多くの利益が手に入る場合には、情報が捻じ曲げられて発信されている可能性が高まります。
a1)私は正しい
a2)あなたは間違っている
a3)支配するのを好む
a4)支配されるのを嫌う
a5)不利になりそうなことを隠す
a6)生き延びようとする(自分をよく見せようとすること含む)
それから、2つ目ですが、次のような状況では自分が正しく情報を捉えられていない可能性が高まります。
b1)複数の情報が錯綜している状況
b2)情報が不足している状況
b3)自分自身のエゴにより情報を捻じ曲げて捉えている状況
というか冷静に考えると、ここまで挙げたような状況の方が、むしろ多いのかもしれません。だからこそ、3現主義(現場・現物・現実)を重視する必要があるとも言えるのですが・・
それでは、一体どうすればよいのでしょうか?
次の3つの視点で情報を検証することをお勧めします。
1)情報の信頼度を考える
2)原理・原則で考える
3)素直な心で観る
1) 情報の信頼度を考える
・情報には多くの場合、事実と意見(主観や考え)が含まれています。このため、事実と意見を分けて、先ずは事実に着目します。
・次に「事実として取り上げている事の根拠がどの程度明確か?」を確認します。例えば、ある試験データに基づいているとか、理論に基づいているとかです。ここで、「○○さんが話していた」は、事実ではあるけども根拠の程度としては下がります。
・そして、「事実が成立する前提条件や境界条件が示されているか?」を確認します。基本的に自然界では、全ての条件において同じ結果が出ることは極めて稀です。このため、結果には必ず前提条件もしくは、境界条件がつきものです。これが曖昧な情報は信頼度が低くなります。
・最後に「網羅性」です。これは、情報に偏りがないという意味です。例えば、夏だけでなく、秋・冬・春のデータもあるとか、今年だけでなく、過去3年のデータもあるとかです。
2)原理・原則で考える
前述の根拠と共通するところもありますが、自然界や宇宙の法則、長年積み重ねられてきた事実に照らして、情報の妥当性を判断するものです。
3現主義に、この原理・原則を加え「5現主義」と呼んだりもします。ちなみに、辞書で調べると次のように書かれています。
・原理:事象やそれについての認識を成り立たせる、根本となる仕組み。
・原則:人間の社会的活動の中で、多くの場合にあてはまる基本的な規則や法則。
3)素直な心で観る
どんなに伝えられる情報が正しくても、自分のエゴにより情報を捻じ曲げて受取ってしっては元も子もありません。松下 幸之助も折に触れ「素直な心」「私心のない心」で物事を捉えることの重要性説いています。実は、これが一番難しかったりするかもしれません。
如何でしたでしょうか?
判断を間違えないために、先ずは「3現主義」を重視してください。それが、難しい時は、ぜひ2つの観点と3つの視点で情報を正しく捉えているか客観的に検証してみることをお勧めします。