心と経営の力学 【No.16】 生産性を高めるムダ取りの視点「スムーズに動かす」とは?
前回のコラムでは、ムダ取りの視点として”動き”に着目したムダの見つけ方を説明しました。その中の視点4に「スムーズに動かす」(上下、蛇行、逆流、渦流、洪水、渇水)がありましたが、これについてもう少し説明して欲しいとのご要望を何人かの方からいただいたので、今回のコラムでは補足説明をします。
ちなみに"スムーズ(smooth)"を辞書で引くと、「①平らな、滑らかな ②むらのない ③順調な、障害のない ④流れるような、円滑な」とあります。
生産を個別の動きの連続と捉えた場合、"動き"から"次への動き"が、この言葉のイメージどおり進行していくのが"ムダの少ないよい動き"と言えます。そう、まるで水がムリなく自然に流れいくイメージです。
それでは、個々の視点についてもう少し詳しく見ていきましょう。
1)上下動が少ないこと
モノや人(身体)を、できるだけ水平に動かすことを意味します。
例えば、「屈んで左側の箱からワークを取り出して作業台や加工機まで持ち上げる。作業後に再び屈んで右側の箱にワークを置く」等の上下動を伴う動きは時間ロスや疲労の原因となります。このため、作業前後(左/右)の箱の高さを調整して水平にワークを動かせるように配慮します。作業から次の作業への動きだけでなく、複数の工程間を移動する場合も同様です。
2)蛇行が少ないこと
モノや人(身体)を、できるだけ直線的に動かすことを意味します。
例えば、「後ろ箱からワークを取り出して作業台や加工機に置く、作業後に再び振返ってワークを置く」等の動きが蛇行に相当します。この他、「A」「B」「C」「D」の4つの部品を順番に使って組み立てる製品があって、部品が「A」「C」「D」「B」の順番で置かれているために、手をあちこちに動かしながら組立てなければならないといったケースも蛇行にあたります。こうした動きは、やはり時間ロスや疲労の原因となるため、できるだけ直線的に動かせように配慮します。
3)逆流がないこと
やり直しが起きないようにすることを意味します。
例えば、「不具合が発生したために前工程へ戻す」、「部下への指示が曖昧だったために資料を作り直す」、等が逆流に相当します。単純な作業や仕事ほどポカミスが繰り返されると言われます。実際、信じられないぐらい単純なミスが2年~3年周期で繰り返し起きるケースを何度も目にしてきました。喉元を過ぎても熱さを忘れないように、不具合が発生した場合には、それを教訓に絶対に再発しないような仕組みづくりを行う必要があります。
4)渦流がないこと
停滞が起きないようにすることを意味します。
例えば、「設備を修理しても同じ故障が再発する」、「会議が堂々巡りになって結論が出ない」、等が渦流に相当します。付け焼刃の対応や、目的や前提が共有されていない業務は、この渦流が起きやすくなります。急がば回れと言いますが、停滞を感じたら、その事象が起きている根本原因を深く考えて対処する必要があります。
5)洪水がないこと
モノや情報を流す際は、後工程(人や機械)の処理能力の範囲内で流すことを意味します。
例えば、「設備の前/後に仕掛り品が停滞している」、「発注者の上が未処理の伝票で溢れている」、等が洪水に相当します。洪水を起こさないためには、一連の動き(工程)の中で、もっとも処理能力の低いところに合わせてモノや情報を流す量をコントロールするか、処理能力を上げる必要があります。
6)渇水のないこと
予定している経営資源の供給が断たれないようにすることを意味します。
例えば、「作業者が欠勤したために予定の段取りができずに加工機を動かせない」、「部品の在庫が切れていたために予定していた製品の組立てができない」、等が渇水に相当します。渇水を起こさないためには、日頃から業務を低度化して複数の作業者が対応できるようにしておくことや、欠品が起きないような適正な在庫管理を心掛けます。
以上が、モノをスムーズに流す視点でのムダ取りの説明になります。この視点をもって再度、現場や職場を観察すると、あらたなムダが見つかるかもしれません。
ぜひ、試してみてください。