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心と経営の力学 【No.20】 社員が期待通りに動いてくれない時の対処法

先日、ご訪問した2社で、何れの社長も「社員が期待通りに動いてくれない」と悩んでいました。
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 ・M社の社長は、「生産管理の部門責任者の能力が高く、日々の顧客要求に対する生産調整を1人で切り盛りしてしまうため、部下が育たない。仮に、この方がいなくなると業務が殆ど回らなくなりそうで不安だ」という悩み。

・L社の社長は、「加工現場で活躍していた社員を、ある部門の責任者に据えてから1年が経とうとしているが、期待通りに動いてくれない」という悩み。
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実際、このように社長の期待と実態が一致しないケースはよく見受けられますが、一体どのように対処したらよいのでしょうか?

このような時は、次の6つのポイントをチェックされるとよいでしょう。

1)期待している役割が合意されているか?

2)業務内容と業務範囲が合意されているか?

3)業務のやり方(プロセス)が適切か?

4)業務の処理能力を超えていないか?

5)担当業務を担う資質があるか?

6)業務に対する感情面の障害はないか?
(不満やわだかまりがないか?誘因に納得感があるか?)

ただし、この6つのポイントをチェックされる前段階として、先ずは対象業務の現状を整理する事をお勧めします。業務の全体像を要素別に整理した例を以下に示します。

この図では、縦方向を「業務の対称軸」として「既存」と「新規」の2つに分け、横方向を「業務のプロセス軸」として同様に「既存」と「新規」の2つに分けることで、全体を4つのブロックに分けています。
さらに、この4つのブロックの中には、業務の性質を考慮した5つの要素があります。具体的には、先ず基本形となる確立された業務プロセス「A1」、さらにA1をより有効で強固なプロセスへと変えていくカイゼン活動「A2」と応用活動「A3」。加えて、これまでの方法に捉われないやり方で効率化や合理化を目指す活動「B」や、全く新しい手法を確立していく活動「C」となります。
なお、各要素の割合は、業界特性や事業モデル、部門や業務によっても変わってくるでしょうが、基本形とその派生である「A1~A3」が全体の7割~8割を占め、新規プロセスとなる「B」と「C」が、全体の2割~3割を占めている状態が理想的です。

ここで、部下に依頼している業務の現状をチェックしてみましょう。

まず、基本形となる確立された「A1」プロセスはあるでしょうか?
 これがないと、部下が自分で対象業務をやるにしても、部下が別の社員を育成するにしても、効率や品質が低下することが懸念されます。
 このため、もし同じ業務であるにも関わらず、個々の社員によって業務手順や業務プロセスが異なるのであれば、業務プロセスを明確にした上で、作業標準や業務マニュアル等をつくり、業務のやり方を統一することお勧めします。作業標準や業務マニュアルをつくることで、業務の品質や効率を上げることができます。また、冒頭のM社で起きていたような、「有能な管理者が、部下の育成や指示がうまく出来ない」といった課題も、標準の業務プロセスがあれば、これをベースにどこで行き詰まっているのか?が確認しやすくなり解決が早まることがあります。

次に、基本形の「A1」がある場合、A1のカイゼン活動となる「A2」や応用となる「A3」、さらには、これまでの手法に捉われないプロセスを導入する「B」や「C」の取り組みはあるでしょうか?
 最終的に、従来のやり方を変えていくこれら一連の取り組みは、基本形の「A1」をより強固なプロセスへと変革していくための有効な活動となり、強いては会社の競争力を高めることにも繋がります。また社員に、業務のカイゼンや変革、あらたな業務の確立に取り組む機会を与えることで社員の能力をアップすることにも繋がります。
 
なお、ドラッカーが「人を育てる最高の道具は仕事である」と語っているように、本質的には仕事上の成果を通してしか社員を育てることはできません。これは、例えば研修やセミナー等に参加して、どんなに有効な知識を獲得しても、当事者がその知識を自身の業務の中に適用して実際の変化を体感しない限り、人は育たないという意味です。

以上のように、先ずは業務の現況を整理することで、部下がなぜ期待通りに動いてくれないのか?課題がどこにあるのか?糸口を見つけやすくなります。

例えば、冒頭のL社であれば、1)の期待している役割は、そもそも対象業務の5つの要素のどの部分なのか? 2)その業務内容や範囲がきちんと説明され、合意ができているのか? 3)そもそも業務プロセスが確立されているのか?既に確立された業務プロセスがきちんと踏襲されているのか?といった具合に確認していきます。また、4)依頼している業務が「A1」プロセスに属すれば、業務量から処理にかかりそうな時間を予測できるので調整がしやすくなります。

一方、5)の資質の適正や、6)の感情面の障害の有/無の見極めについては、もう少し別の視点も必要となってくるため、また機会をみてお話しします。

もし、貴社においても「社員が期待通りに動いてくれない」といった課題があれば、先ずは対象業務の現状と、5つの要素のどの部分を依頼しようとしているのかチェックしてみてください。
何らかの解決の糸口が見つかるかもしれません。