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心と経営の力学 【No.23】 生産性を高めるために、最小化すべき6つの特質とは?

新型コロナウィルスの影響により”マスク”が不足していることに関連し”ティッシュペーパー”や”トイレットペーパー”までもが、今後「供給不足になるらしい」との情報が2月末に一気に拡散しました。これを受け、多くの人がこぞって購入したため、スーパーやドラッグストアの店頭からティッシュ関連の商品が無くなる現象が起きました。

私は、最初にこの情報を顧客訪問時に事務員さんから聞きましたが、その時は「まさか」と半信半疑でした。しかし、帰りにディスカウントストアに寄ってみると、ティッシュ関連の商品の棚が見事に空っぽになっており、一抹の不安を覚え、チョット調べてみました。するとマスクとティッシュでは基本的に原材料や生産工程が異なることが分かり、実際にティッシュが不足する可能性は低いと判断しました。
 最終的に、この件については「国民全体の3週間分に相当する十分な在庫(3億5,000万ロール)がある」ことを、先週末に政府が発表したことで無事に収束しました。

しかし、なぜ人は、このように一見すると非合理な行動をとってしまうのでしょうか?
 実は、今回のこの"珍"現象の中に、経営者が強く意識しておくべき人間の特質が潜んでいます。

その特質とは「人間は理性を持った"動物"である」という点です。 

人間には、自己を守るために次の6つのエゴがあります。
  
1)私は正しい
  2)あなたは間違っている
  3)支配するのを好む
  4)支配されるのを嫌う
  5)不利になりそうなことを隠す
  6)生き延びようとする(自分をよく見せようとすること含む)

全ての特質がある特定の人とのあいだで当てはまらなくても、取り巻く人との関係を順に見ていくと多かれ少なかれ全てを持っていることに気づくと思います。
 もし、まだピンとこないようであれば、例えば親や子供といった近しい関係から振返ってみると納得されると思います。
 これは単純に「いい / 悪い」という話ではなく、人間なら誰しもが持っている特質です。
 逆に言えば、これを持っているからこそ人間である、という言い方もできます。

通常、これらの特質は理性や道徳心によって、あまり表に出ないようにコントロールされています。しかし、一旦不安に駆られたり、感情が走り出すと、これらの特質が大きく表出してきます。この結果、今回のような"珍"現象が起きてしまうのです。

 それでは、同様の事態が会社の中で起きることはあり得るのでしょうか?

答えはYesです。なぜなら、正しい情報や、共有された方針、ルール等がない場合「人は自分の判断が正しいのか?」「失敗したら自分が責めらるじゃないか?」「勝手に行動したら怒られやしないか?」・・・等々、不安に駆られることが多くなります。このため、生き延びようと保守的になったり、意味を考えずに他人と同質的な行動をとったり、できるだけ自分を優位な立場に置こうとしたり・・・といった行動をとりやすくなります。このため、事の大小はあるにせよ、本質的には今回の"珍"現象と同様の問題が会社内でも起こり得ます。

ここで、幾つか事例を紹介します。
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 L社では、主力製品群を「A」「B」「C」「D」の4工程を経て生産しています。近年、在庫が増えて手元資金を圧迫しているため、原因追究と在庫削減の依頼を受けました。
 はじめに、経営者や各工程の主任にヒヤリングしたところ、大勢が「B工程」の生産能力に問題があるとの見解でした。一方で「B工程」の主任は「A工程」から製品を受取ってから、全ての製品を1週間以内には次の「C工程」に引き渡している。よって「我々の工程が在庫を抱える原因ではなく、問題はA工程にある」と主張しています。各工程の生産データはあるものの、生産している品種が多いため、どの工程がボトルネックなのか特定しにくい状況もあって、主張は平行線をたどったままです。
 つまり、会社全体として在庫の問題を抱えている事を全員が認識しつつも、正しい情報がないために、お互いの工程で「自分のところは正しい。あいつが悪い」とやっているわけです。
 最終的に、この問題は各部門が持っているデータを統合して流動曲線を描くことで、A工程がボトルネックになっている事が分かり、全員が納得の上でカイゼンを進めることができました。
 正しい情報がないと、人ってなかなか動けないんだなぁと痛感した事例です。

ちなみに「データ」と「情報」と「知識」は、異なるものですが、その違いが分かるでしょうか?
 イメージ的には「点」と「線」と「面」の違いです。
 本事例も含めて、データは持っているけど情報に変換できていないために、非合理な行動、非効率な行動を繰り返している企業が本当に沢山あるので、少しだけ説明しましょう。

・「データ」(点)
 ある事柄に対する客観的事実を現わすもので、1つ1つのデータにあまり価値はありません。
 例1)ある日の生産数  A工程:4,000台 B工程:2,000台数・・・・・
 例2)トイレットペーパーの在庫数 A企業:2,000万ロール B企業:3,000万ロール ・・・・

・「情報」(線)
 「データ」間の関係やパターンを抽出することで受け手にとって意味あるものに変換したものになります。これにより、各データがはじめて価値を持ちます。
 例1) A工程とB工程の月次の累積生産数と工程間の生産ギャップ
 例2)全国のトイレットペーパーの在庫数は、3.5億ロール

・「知識」(面)
 複数の「情報」をより役に立つ形に統合・構築したものです。これによって、問題を回避したり、解決できたりします。
 例1) A工程とB工程の生産累積数に○個以上のギャップが生じたら、B工程の生産を一旦ストップして、A工程の生産応援に入る。
 例2)1週間に1人平均 1ロールのトイレットペーパーを使う。在庫だけで3.5億ロールある。よって関連企業の生産が万一ゼロになるようなことが起きても、市場にはまだ3週間分もの在庫がある。

もう1つ別の事例です。

M社の5S活動を今月よりご支援しています。現状の困り事について事前アンケートをとったところ、行動にブレーキが掛かっていそうな意見が沢山聞かれました。
 一例を紹介すると、次のような内容です。

・「片付けをお願いするのはしずらい。片付けするにしても、必要なもの、不必要なものの区別がつかないのでやりづらい。人によって感性が違うので、基準的なものがあった方がいい」

・「各個人が自己流のやり方ではなく、会社全体で決めて、全員が同じやり方で進めていけたらと思います。そう願います」

同様の意見は5Sの導入段階では他の企業からもよく聞かれます。また、こうした意見が出される場合、通常業務においても同様の事態が起きていることが多く、業務の非効率化を招いています。
 共通のルールがないために、自分を守る意識が強く働き、行動が制限されてしまう事例です。
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最後にもう一度お伝えします。先に挙げた6つのエゴは「いい/悪い」ではなく、人間の持っている特質です。経営者はこの特質を理解する必要があります。

貴社では、これらの6つの特質が幅を利かせないように、正しい情報の提供や方針・ルール等の共有を行い、生産性の向上に努めているでしょうか?