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心と経営の力学 【No.24】 次の段階で求められる、「攻め」の働き方改革とは?

いよいよ、4月1日から中小企業にも「働き方改革法」が適用されます。
 あらためて施行内容を確認すると次の3つとなっています。

1)残業時間の「罰則付き上限規制」
 2)5日間の「有給休暇取得」の義務化
 3)「勤務時間インターバル制度」の努力義務化

帝国データバンクが2月に発表した資料によれば、1)、2)共に約3/4の企業が対策済となっているで、第1段階については苦労しながらも何とか対応された状況が見受けられます。

一方で、ここでもう一度働き方改革の背景や目的に立ち返って考えると、あくまでこれは序章であって、本質的に対応しなければならない事が見えてきます。

まず、国が「働き方改革」を推進する背景には、①労働力人口の減少対策 と ②労働生産性の向上実現 があります。

①の労働力人口について、みずほ総合研究所の資料によれば、2020年~2025年の今後5年間で255万人減少すると予想されています。
 これは、どのぐらいの規模かというと京都府の人口 258万人にほぼ匹敵します。つまり、今後5年間で京都府の人口がゼロになるぐらいの勢いで労働力が減少していくということです。長野県(205万人)であれば約4年で人口がゼロになる勢いです。

こうした背景を受け、労働力不足の解消を行う必要があり、次の3つの対策が挙げられています。
 A:働き手を増やす
 B:出世率の向上
 C:労働生産性の向上

このうち、直接的に企業が関与できるのはAとCとなります。これらについてもう少し詳しく見ていきましょう。

A:働き手を増やす
 労働力人口の定義は、15歳以上の働く意思( 既就業者 + 求職者 )のある人口です。就業能力があって、「短時間なら働きたい」「〇〇の条件を満たせば働きたい」・・と思っていても、実際に求職活動をしていない場合は、労働力人口にはカウントされません。
 このため働きやすい環境の整備を促し、現在就業していない、子育て中の主婦や、会社を定年退職した方でも働きやすくすることで、働き手を増やそうとする狙いです。

会社側では、これらの人材を採用して実際に労働力の不足を補うためにはできるだけ早く戦力化する必要があります。そこで有効になるのが、以前にコラム等でお話ししてきた「マニュアルの作成」や「作業標準の設定」、「業務の低度化」です。つまり、幅広い人材が素早く業務に対応できるようにするための環境を整備する、各自の能力・適正にあった業務を提供できるように、業務プロセスを分解し業務を分散できるようにしておくことです。

【No.13】 人材の流動化に備える「マニュアル」の役割 
 【No.21】 生産性向上や社員の資質を見極めるのに役立つ、「守・破・離」の視点

C:労働生産性の向上
 私は、どちらかというと「働き改革より」、こちらの「労働生産性向上」が本命ではないかと考えています。
 政府は表向き「労働人口減少に備え、働き方改革を進めてね。その一環で労働生産性も高めてね」と言ってますが、実際は「国の借金が膨らんで大変な事になっていて、もっと稼いで貰わないと国際社会の中で生きていけない。何としても②労働生産性を高め、その一環で働き方改革(A,B)も進めてね」というのが本音ではないか?ということです。

今や日本の稼ぐ力(一人当たりの労働生産性)は、先進7か国(G7)の中で最下位となっています。また、経済協力開発機構(OECD)36ヶ国の中でも21位と低い水準です。

一方で、国の借金は、2019年11月時点で 1,100兆円に達しました。このデータを見ても、稼ぐ力(GDP)に対する負債残高でダントツ世界一です。
 これに対し、一部には「国債購入の大部分(9割)が国内機関や国民だから大丈夫」、「政府の保有純資産(700兆)があるから大丈夫」、「海外への投資資産(1,000兆)あるから大丈夫」・・・等の楽観的な意見もあります。しかし、借金の実質支配権を誰が握っているかということを考えれば、やはり憂慮すべき問題であり、必死になって対応しなければならない事に変わりありません。

このため、我々は何としても労働生産性を高める必要があります。

ここで、労働生産性を簡単な式で現わすと次のようになります。

労働生産性 = 付加価値 / 労働投入量

つまり、どれだけの労働力を投入して、どれだけ付加価値を生み出したかです。

ステップ2
 労働生産性を高める初期段階では業務効率をあげて労働投入量(分母)の低減に取り組む企業が多いと思います。この時に注意が必要なのは、単なる「省力化」では実質的な効果が現れにくいという点です。
 例えば「A工程の作業時間が2割削減(省力化)しました」といっても、そのA工程に関わっていた担当者が「その時間で他の付加価値を生む業務を行っている」「その時間は人件費がかかっていない」状態でないと、実際の効果は出ません。
 このため、労働投入量の削減を考える時は、まずは「省力化」ではなく「省人化」できないか?という発想で考えることをお勧めします。
 
例えば、A工程の作業効率を2割削減(省力化)しようと考えるのではなく、A工程の効率を落とさずに5人→4人(省人化)することを考えます。
 また、考えているだけでは限界があるので、少し強引ですが先に4人にしてしまってから、見つかった課題を潰していく方が早く効果がでます。大野 耐一氏もこの考え方でTPS(トヨタ生産システム)を確立してきました。また、実際に私も何社かで効果があることを体験しています。
 これは、水が一杯に満たされた池で、水中に沈む石(課題)の「かたち」「色」「数」・・等を、水上から正確に把握しようとしても限界があるのと同じです。水を減らしていって実際の石(課題)が見えるようになって、初めて有効な対策がとれるようになります。

ステップ3
 労働生産性を高める最終段階は付加価値(分子)の向上となります。

大手企業に対して、労働力や資本力の大きさにハンディのある中小企業の場合、労働生産性を大幅に向上するためには、こちらの「付加価値の向上」に一層注力する必要があります。
 この高め方については、各企業の状況によって一言でお伝えすることが難しいので、また機会をみて事例等をご紹介できればと思います。

最後に、ドラッガーも言っているように「我々(組織)の存在理由は、いかに社会に貢献するか」です。

お客様に喜んでもらえる価値の増大、社員がやりがいを持って働ける職場環境の提供、を追究し続けることでしが、本当の意味で労働生産性を向上することはできません。

貴社では、次の段階で必要となる「攻めの働き方改革」を既に進めているでしょうか?