心と経営の力学 【No.25】 管理者の生産性を高める、環境の整備とは?
「うちの管理者やリーダーがうまく機能してくれないんですけど、どうしたらいいですか?」という趣旨の相談を度々お受けします。
「実際にどのように機能してもらいたいんですか?」と尋ねると、だいたい次の2つケースに分かれます。
1つ目は、「・・・・・」閉口してしまうケース。
2つ目は、「日々の突発事項や顧客からの要求に対し、私(社長)にいちいち聞かなくても柔軟に対応して欲しい」というケース。
こちらの要望は、尤もなのでよく理解できます。
それでは、そもそも「管理」とは何なのでしょうか?管理者やリーダーは、どんな状況であれば、より機能できるのでしょうか?
今回のコラムでは、そのヒントと具体例についてお話しします。
日本電産の永守会長が、以前こんな話しをした事がありました。
「いろんな会社や人を見てきた経験から言うと、残念ながら自分で自分のモチベーションに着火できる人は3%ぐらいやな。残りの殆どの人は、その3%の人や周囲の環境に刺激を受けたり、促されたりすることで何らかの行動を起こすんや」
なお、ここで言うモチベーションとは「次は、こんな方法で試してみよう」「よし、こんなモノを作ってみよう」・・と、次から次へと自発的に行動できる人を指します。
この話しを聞いた時は、そんなに少ないかな?・・・と思いました。しかし、冷静に会社の中を見渡すと、多少の差はあれどだいたい当たっている気がします。またその後、コンサルタントになってから私もいろいろな会社や人を見てきましたが、やはり概ね当てはまります。
殆どの管理者や社員は、「会社が決めた目標」「上司から指示された事」、「顧客と約束した事」・・等に応えるかたちで行動しています。それでイイんです。これが普通です。
「何も言わなくても、自発的にどんどん動いてくれる」なんて妄想は捨てる必要があります。
このため、より多くの成果を上げようと思えば、より具体的な目標や指示、テーマを与える必要があります。シブシブでも行動せざるを得ない仕組みや環境を造る必要があります。
それによって、会社の生産性が大きく高まります。
そのための有効な手段の一つをご紹介します。ここで、経営計画で立てた売上目標を確実に達成することを考えます。
実際に売上に繋がるまでには、必ず幾つかのプロセス(段階)があります。代表例として、次ようなプロセスを取り上げてみましょう。
①見込み客リスト → ②資料の送付 → ③フォローアップ・アポイント取り → ④顧客訪問・商談→ ⑤サンプル提供 → ⑥見積り → ⑦契約・受注 → ⑧売上げ
ここで、各プロセスが進むに連れ、見込み客数の数はどのように変化していくでしょうか?
そう、下の図に示すように少しずつ減っていくハズです。これを、その形になぞらえ「セールス漏斗」と呼びます。
売上目標を確実に達成しようと思ったら、売上から逆算して、各プロセスでどの程度の見込み客が必要であるかを設定し、定期的に現況を把握しながら先手を打って対処する必要があります。
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例えば、S社では、各営業担当者が抱えている案件のプロセス状況を入力して、それを全社共有し、経営幹部と管理者による週次会議で状況をチェックしながら必要な指示やアクションを起こしています。
これをもう数年続けていますが、売上計画の目標を毎期達成しています。
また、あるプロセスから、次のプロセスに移行するまでの時間や減少率の精度も段々高まってきました。このため、成果を達成するために、今どのプロセスに注力すべきかが的確に判断できます。
B社では、ここまでプロセスを細かく分けて管理していませんが、各担当者が持っている案件情報と、その受注確度、売上時期の見通しを管理シートに入力することで、月次の着地予想をリアルタイムに見れるように整備しました。これを導入した年は、売上計画が目標に対して2割アップしました。
B社の場合は、社長がほぼ毎日着地予想をチェックしながら各担当者のフォローアップや必要な手立てを打っていきました。また、各担当者は案件情報を入力する度に否が応でも、他の担当者の状況が目に入ってきます。自分の状況と比較します。これによって、自発的な行動が促される効果もありました。1つひとつの案件情報のリアルさが、行動力を駆り立てたのです。おそらく、月次の集計結果だけを知らされただけだと、ここまでの刺激は受けないでしょう。
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さて、「管理」を辞書で引くと、次のようになっています。
・「何らかの基準に対してそこから外れないように統制すること」
・「よい状態であるように気を配り、必要な手段を(組織的に)使ってとりさばくこと」
管理と聞くと、前者のガチガチな統制をイメージする方もいると思います。もちろん仕事の内容によっては、こちらの管理手法が適しているケースもあります。
しかし、全般的には後者のスタンスで管理した方が上手く行くケースが多いように感じます。つまり、ある成果をあげるために、現況を確認するための手段を予め用意しておいて、その状況に応じて対処していく。
ちなみに「管理」と、似て非なるものに「マネジメント」があります。さきほどの辞書のなかの「とりさばく」という表現を「実行を後押しする」に変えると、マネジメントに近くなります。
例えば、セールス漏斗に示した、④顧客訪問・商談のプロセスをさらに細かく分解して、望ましい商談プロセスを明らかにしておけば「部下が何処まで進捗しているのか?」「逆に何処で行き詰まって進めないのか?」を把握しやすくなります。管理者はマネージャーとして、より適切なアドバイスや支援がしやすくなります。また、部下自身もプロセスに沿って商談を進めることで効率的かつ効果的に業務を進められるようになります。
このように環境が整備できていれば、管理者は「マネジメント」的な機能をより多く果たすことができます。
他方、冒頭の「突発事項や顧客要求への柔軟な対応」についても、判断基準やプロセスを明らかにしていないために、管理者やリーダーが社長に聞かないと対処できない場合が殆どです。
如何でしたでしょうか。
貴社では、管理者が機能して成果をあげるための環境が十分に整備されているでしょうか?