心と経営の力学 【No.31】 激動の環境変化に備えるためにも、いま絶対に必要な社内環境の整備とは?
新型コロナウィルスの終息が、なかなか見通せない中、多くの企業や人たちの間で混沌が深まっているように感じます。
もっとも悩ましいのは「コロナの終息後は、経済も人の意識も大きく変わりそうだ」という感覚が強まっているなかで、「一体どう変わっていくのか?」という事が、ハッキリ見えてこない点だと思います。
一方で、世界がどのように変わるにせよ、組織の成長や生産性という観点から、絶対に推進しておくべきことがあります。
それは、情報伝達を効率的に行う環境を整えることです。
もう少し具体的に言うと
①情報を看える化する。
②情報を溜める(データベース化)
③情報を繋げる(ネットワーク化・共有化)
④相互コミュニケーションを図る。
環境を構築するということです。
外部環境の変化が見通せない状況の中で、内部環境内(社内)だけでも、必要な情報が、必要なタイミングで、必要な人に、スムーズに流れる、双方向でやりとりできる、環境を整備しておくというわけです。
いま、コロナ対策として、テレワークや輪番交代制勤を一次的に導入している企業が多数あります。
これまで、同じ空間、同じ時間を共有しながら仕事をすることが当たり前だった状況が一変したのですから、何らかの支障や影響が出るのは当然でしょう。ただし、その影響度合いを比べると、企業間や個人間で大きな差が生じています。
もちろん業種特性やビジネスモデル、職種間によって生まれる差異もあるでしょうが、おそらく同類の企業間、職種間で比較しても大きな差があると推測されます。何故なら、今盛んに叫ばれているZoomなどのWEB会議システムの仕組みは20年以上前からありますし、ファイル共有システムの仕組みも10年以上前からありました。
こういうと本当に実用化されていたの?と疑問を持つ方もいるかもしれません。
私は、実際にビジネスの中で使っていました。すでに2006年には国内外のお客様やサプライヤーと毎週のようにWEB会議システム(TV会議システム)を使いながら医療機器やFA機器の共同開発をしていましたし、2008年のリーマンの時も自宅にいながら会社のサーバーに普通にアクセスして仕事をしていました。
また、個人的にも2009年には、SkypeというWeb会議システムを使ってiPhoneでフィリピンの大学生と毎日英会話をしていましたし、Dropboxというファイル共有システムを使ってスマホのアプリソフト開発や執筆プロジェクトなどを社外の人間と共同ですすめていました。
このような環境が以前より構築され、日常的に使っている人たちから見れば、今の状況下はたしかに不便ではあるけれども、影響は少ないはずです。むしろ、通勤や移動時間がなくなったり、あらじめ時間を明確に決めて集中的に打合せを行うようになったりしたために、生産性が向上したという人も沢山います。
でも、それって「ホワイトカラー(事務系)の仕事だからできるのであって、ブルーカラー(現場作業系)の仕事は無理なんじゃないの」と思う方もいるでしょう。
たしかに、遠隔操作(リモート)や自動運転で可能な仕事というのは現時点ではかなり限られているので、難しい企業や職種の方が多いでしょう。しかし、冒頭でお伝えした「情報伝達を効率的に行う環境を整える」という観点で考えた時に、出来ることが本当にないでしょうか?
少し話しが変わりますが、5S活動の1つに「整頓」があります。いわゆる「看える化」、「標示化」を行う活動です。この整頓もいわば、情報伝達の仕組みの1つです。
当社では、指導する際に「新人や部外者でも1分以内に必要なモノが見つけられ、また使った後に元の場所に戻せるように看える化してください」とお伝えしています。
これは、何もモノに限ったことではなく、目に見えないようなモノ、すなわち”情報”についても同様です。
社員の能力を最大限に引出して業務の生産性をあげるためには、必要な情報をできるだけ短時間で、「見つけられる」「伝えられる」「受け取れる」「交換できる(ディスカッションできる)」環境(仕組み)の構築が必要不可欠です。
例えば、「電子ファイル名の付け方を統一する」、「関連書類の一覧表(データベース)をつくる」、「書類のフォーマットをつくる」、「業務マニュアルをつくる」、「業務フローを決める」「ルールを決める」・・等々、これらは全て情報です。そして、これらが共有化されていればいるほど社内の生産性は高まります。新人も短期間で戦力化できます。担当者の急な欠勤や退職にも対応できます。
一方、これらが曖昧になっていると、担当者によってやり方が違ったり、同じ人でもその時々で異なる対応をとります。統一性がないので、担当者がいなければ分かりません。時間が経てば、自分でもあの時どうやったか忘れます。
ここで、情報には大きく分けて「フロー情報」と、「ストック情報」の2種類があります。
「フロー情報」は一時的に必要な情報で、その時々で知っていればいいニュースのようなものです。例えば「今日はA社が15:00に来社する」、「明後日は、Bさんが有給で休む」・・・といった類の情報です。
他方、「ストック情報」は、蓄積し、同様のシーンで再利用を繰返していくための情報です。先に挙げたような類の情報です。ストック情報が共有され、徹底的に再利用している企業は自ずと生産性が高まります。石垣を着実に積み重ねていくので成長スピードも早まります。
残念ながら、この情報の「ストック化」という概念がないため、多くの情報を「フロー化」してしまっている企業が散見されます。なお、個人持ちの情報も、再利用できない(状態の)情報も、ストック情報ではありません。何故なら、特定の人がいないと分からない、見つからない、何が書かれているか分からない、といった状態であれば、本質的にはフロー情報と同じだからです。
ここで、ストック情報について、あまり難しく考えすぎて行動が止まってしまうと元も子もないので「いま、出来ることから直ぐに始めましょう」という意味を込めて1つ事例をご紹介します。
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先日、訪問したL社では、コロナの影響を受け、社員半数ずつを輪番交代制で勤務させていますが、一人当たりの生産性が1割~2割程高まっているそうです。
理由を確認すると、例えば、次のような取り組みを始めたとのことでした。
・翌日の作業者に伝達事項を正確かつ端的に伝えるための書類フォームをつくり、それに申し送り事項を書くようにした。
(申し送り事項はフロー情報ですが、書類フォームは再利用や改変ができるのでストック情報となります)
・工程間や作業者間で手待ちのロスがでないように、より綿密な作業スケジュールを前日までに作成し、予め各作業者に伝えるようにした。
・・etc
もともと、マニュアルづくりを推進していたところに、今回の事態が重なったこともあり、比較的スムーズに社員が対応できたのが功を奏したのかもしれませんが、それでも何れも単純な内容ですし、真似しようと思えば、直ぐにできることです。
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ここで、もう1つ「進化論」の観点からも、情報提供の重要性について説明します。
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大きな環境の変化を生き抜くために、よく引用される言葉の1つに進化生物学者のダーウィンの言葉があります。
「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」※
(※注釈 じつはこれはダーウィンの言葉ではなく、米国の経営学者レオン・メギンソンが1960年代にダーウィンの考えを独自に解釈して論文中に記した言葉です)
それでは、一体どのように変化に対応すればよいのでしょうか?
実は、ダーウィンは「必要な変化は受動的に生じ、変化した多様な種の中から、環境に適したものだけが生き残る「自然選択」が行われると主張しています」
ここでの、ポイントは変化が受動的に起こる点です。
他方、教会からの弾圧を受けてあまり有名にはならなかった「ラマルク」というフランスの生物学者がいます。彼は、ダーウィンの約50年も前に次のような進化論を語っています。
「生物どうしや生物との環境のあいだでは、"情報を与え"あったり協調的な相互作用がおこり、それによって生命形態が存在可能になり、変化していき、このような活動的な世界の中で起こることが進化の基盤になっている」
つまり、進化の方向性を決めるのは環境からの情報を如何に的確に取り入れ、それにより協調的な相互作用を起こすかがカギであると語っています。
今日の生物学者の中には、このラマルクの考えを支持している人が増えています。また、あのチャールズ・ダーウィンでさえも、晩年になってから、進化論がこの環境からの役割りについて正しく評価していなかったことを認めています。
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このように進化論の観点からも、社員に必要な行動(進化・成長)を促し、社内の生産性をあげるためには、必要な情報を的確に提供する環境を構築することが重要である。ことがお分かりいただけると思います。
以上のような視点から、社内業務や情報伝達の仕組みを見直せば、このような状況下においても、カイゼンできる事がまだ沢山あるように思えますが、貴社においては如何でしょうか?