心と経営の力学 【No.32】 組織の盛/衰を大きく左右する「アップデート」という概念
先週で39県の緊急事態がようやく解除されました。残りの都道府県についても、このまま感染者数が少ない状態が続けば間もなく解除される見通しです。
ところで、約1ヶ月~1.5ヶ月にわたり続いていた緊急事態のあいだ、貴社では事業や業務に関してどんな「アップデート」をされましたか?
アップデートというと、「コンピュータのシステムやソフトウェアを最新状態にすること」をイメージされる方が多いと思いますが、ここではもう少し広い意味で捉えてください。具体的には「環境の変化に適合するように、事業の仕組みや業務のやり方を"新しくする"、"更新する"、"改定する"」といった意味合いです。
ここで、もう一度最初の質問に戻ります。
緊急事態のあいだに、従来の仕組みを新しくする、更新するといった取組みをされたでしょうか?・・・
「候補をリストアップした」「具体的な取組みを検討している」「実際に〇〇に取組み中」・・・でも構いません。何かを変えていく取組みです。
組織の盛/衰を決める上で、積極的に環境の変化を捉えて、アップデートを繰り返していくという視点は非常に重要です。
少し話がそれますが、年齢を重ねても精力的に活動を続けている方が沢山います。
例えば、京セラの創業者でもある稲盛 和夫氏は、78歳の時に日本航空会長に就任し見事な再建を果たされ、88歳なる現在でも活動を続けています。日本電産の永守会長は、今年75歳ですが未だに第一線で経営にあたっています。
また、プロスキーヤーにして登山家の三浦 雄一郎氏は、80歳でエベレスト登頂を成し遂げています。なお、父の三浦敬三さんは99歳でモンブラン氷河からの滑降を成し遂げたというから、さらに驚きです。
こうした方々が、高齢になっても元気に活動、活躍できる秘訣はどこにあるのでしょうか?
もちろん、持って生まれた才能もあるでしょう。想像を絶するような意思の強さもあるでしょう。
他方、もっと大きな要因の1つに、日々多くの情報に触れたり、それをもとに考えたり、適時必要な行動を起こしたり、している点が挙げられると思います。つまり、必要性に応じて考え方や行動を日々アップデートしているわけです。
脳の特性の1つに「使わないモノは失われる」があります。年をとった人がよく直面する問題として、「言葉がでてこなくなる」「視覚がぼんやりしてくる」「動きがにぶくなったり、バランスを崩しやすくなる」・・などが挙げられます。
これらの原因の、1つ目は肉体的な衰えによるものです。
2つ目は、脳の注意システムが使われなくなることで、脳が委縮していくことによって起こります。この注意システムとは脳への適切な刺激と考えてください。脳への適切な刺激がないと、脳を「スイッチオン」の状態にして明瞭な記憶や活動を手助けするための神経伝達物質(アセチルコリン)の放出量が低下します。そして、活動を控えることが多くなるため、さらに肉体的な衰えを進行させる悪循環になっていきます。
反面、さまざまな事に関心を持ち、脳に適度な刺激を与え続けていると、脳の萎縮スピードは当然遅くなります。先に挙げた名経営者たちが元気なのは、このメカニズムが作用しているところが大きいと考えられます。
話を戻します。私は組織の盛/衰もまったく同じだと考えます。日々、どれだけ組織内に刺激を与えられるか、それにより組織が変化できるか、に掛かっているのではないでしょうか。
松下 幸之助は、著書や講演のなかで頻繁に「日に新た」や「生成発展」という言葉を使って、考え方や事業、業務を日々変化させていくことの重要性を説いています。例えば、次のように語っています。
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今年は、去年のままであってはならない。
今日は、昨日のままであってはならない。
そして、明日は、今日のままであってはならない。
万物は、日に新た。
人の営みもまた、天地とともに、日に新たでなければならない。
憂きことの感慨はしばしにとどめ、
去りし日の喜びは、これをさらに大きな喜びに変えよう。
立ち止まってはならない。
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新型コロナウィルスの影響により、これから間違いなく、変化のスピードが早まります。ニーズの多様性も益々加速していくでしょう。
世の中が大きく変わっていく時に、旧態依然の考え方や、やり方を続けていれば、必ず事業は衰退していきます。
逆の立場で考えるともう少しイメージが湧くかもしれません。皆さんが日々使っているパソコンやスマホのアプリケーションソフトが、まったくアップデートされずに操作性や機能性が向上しない。ある条件が重なるとバグ(不具合)がでるのに一向に改善されない。セキュリティーホールがあってコンピューターウィルスの感染脅威が高まっているのに何ら対策が打たれない・・・・。そんな中、他社からもっとよいアプリが販売されたら、いま使っているアプリ(サービス)をそのまま使い続ける気になるでしょうか?
守るべきは守り、環境の変化や時世にそぐわないものはどんどん変えていく、こうした姿勢があるからこそ、自社のサービスが選ばれ続け、使われ続けていくのです。
日本は、世界でもっとも長寿企業が多い国です。創業100年以上の企業数は米国の1.7倍で、約33,000社あります。その数は世界全体の4割にあたります。もともと日本には、他者や環境の変化を受け入れながら消化・発展させていく文化があります。
適切なアップデートを繰返しながら、これらから来る大きな変化をぜひ乗り切っていきましょう。