心と経営の力学 【No.34】 効果的な意思決定のために、絶対に欠かせない視点とは?
新型コロナウイルスのニュースが、テレビをはじめ、新聞、ネット上で目まぐるしく流れています。
例えば、
「治療法Aが最も効果がありそうだ ⇔ 治療法Aは多くの危険をはらんでいそうだ」
「薬Bは安全性が高い ⇔ 薬Bを投与した患者が死亡した」
「このウイルスは動物由来のものだ ⇔ 人為的なものだ」・・・・
これだけ多くの情報が飛び交っていると「どの情報が正しいのか?」なかなか判断できない、というのが正直なところではないでしょうか?
こういう時に、いつまで経っても適正な判断ができない状況が続くというのは悩ましいですが、一方で危険なのは、ある一部の情報だけで誤った判断してしまうことです。
ところで、同じような事が会社の中でも起きていないでしょうか?適正な判断をしていなかったり、誤った判断を繰り返したりしているために、長年抱えている〇〇の問題が一向に解決できない、〇〇のカイゼンに取り組んでいるものの実際の効果が数値に現われてこない、といった状況です。
もし、思い当たることがあれば、本当に「事実」に目を向けているか?を一度疑ってみるとよいでしょう。
つまり、ある特定の部門や社員からの情報のみで判断している、一部のデータやある側面だけを見て判断している、といった事がないでしょうか。
私たちの思考、行動というのは、インプットされる情報に基づいて決定づけられます。さらに言えば、複数の情報の中から「何を信じるか」によって決定づけられています。
小さい頃は、親から教えられる事(情報)が多くを占めており、その過程で思考が形成され、多くの行動を決定づけてきました。
もう少し大きくなると、教科書や学校の先生、仲の良い友人からの情報が、これに加わりました。
さらに中・高生ぐらいになると、尊敬する人物や本、WEBからの情報の影響も受けるようになりました。
そして社会人になれば、経営者や上司・部下・同僚、顧客をはじめとするステークホルダー、調査会社等からの情報が貴重な判断材料になります。
当然ながら人によって、成長するまでに触れる情報は大きく異なります。それによって個性がつくられ、感情がつくられ、信念が形成されているといっても過言ではありません。
このため、ある情報に触れた時に、何を信じるか、どう解釈するか、何を重視するか?は、人によって大きく異なります。さらに、過去のある時点から情報がアップデートされていない(思い込み)や、さまざまな思惑や感情の働きによって一部の情報が誇張して伝えられる、といった事もよくあります。その結果、「事実」が正しく伝えられていない可能性が高いということです。
経営者やリーダーの皆さんは、自分が触れている情報には、こういう側面がある事を十分に理解しておく必要があります。
こういう話をすると「うちの会社に限って、そんなことはない!」と反論される方もいるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?
事例を紹介します。
======
アパレル企業 H社では、過剰在庫の問題を抱えていました。
当社でデータを分析すると、ある特定サイズのパンツやシャツが多くの過剰在庫を抱えていました。一方で、売れ筋サイズが欠品している、という状況が複数のアイテムで発生していました。
その事実をデータと共に、経営者や管理者、店舗スタッフに伝えると殆どの方が「自分が思っていた売れ筋サイズが違う」と驚かれていました。そう、多くの方がある時点の過去情報や、伝えられた情報をもとに誤った解釈をし、判断をしていたのです。そのため、数年間にわたり在庫の問題が解決できないままでした。
精密加工会社のL社でも、在庫の問題を抱えていました。
社内の主要メンバーにヒヤリングすると、A工程、B工程、C工程の中で、ボトルネックになっているはB工程だと多くの方が答えていました。
当社でデータを分析すると、たしかに数年前まではB工程がボトルネックでしたが、現在は明らかにA工程がボトルネックとなっていました。このため、なかなか在庫の問題が解決できない状態が続いていました。
======
これら2つの問題の共通点は、さきほど説明したように、事実にもとづいた正しい状況の把握と判断をしていないがために、なかなか解決できない状態が続いていました。
同様の観点で、貴社の意思決定プロセスを振り返った時に、誤った判断をしている可能性がある事案がないでしょうか?
「事実」と似た言葉に、「真実」という言葉があります。「事実」が客観的な情報であるのに対し、「真実」は主観的な情報も含みます。主観ですから、情報を伝える人のフィルター(個性・思考・信念・思惑・・等)が含まれ、さらに情報を受取る人のフィルターも介して解釈されます。
このため、「事実」は1つですが、「真実」は人の数だけあると考えるのが賢明です。
だからこそ、経営者やリーダーの方は、自分が今触れている情報の、どこまでが事実かという点に常に注意を払う必要があります。重大な問題解決にあたる時や、大切な判断をする時はなおさらです。
「ブルータス、お前もか」などの特徴的な引用句でも知られる、ローマ期の文筆家であり、政治家、軍人でもあった「ガイウス・ユリウス・カエサル」は、「人は見ようとするものしか見ない」と言っています。
また戦闘機のパイロットにとって、もっとも重要な行動原則は、感覚でななく「計器を信頼しろ」だそうです。
何れも人の受け止め方や、感覚はそのぐらいあてにならない事を現わす言葉です。
そうであれば、情報も通過する人のフィルターの影響を色濃く受けて、伝えられるという事になります。
また、私たちは限られた時間の中で、信頼している(と思っている)人や、権威がある(と思っている)人やメディアからの情報を、盲目的に信じる傾向があります。
これらの点を考慮すれば、特に重要な判断を下す時には、徹底的に事実をもとに判断した方がよいことが分かります。
これから、コロナウイルスの影響によって大きく時代が移り変わろうとしています。これまで以上に、当社の進む方向を「事実をもとに見極める」ことが重要となってきます。
貴社には、事実を的確に把握する仕組みや、事実にもとづいた適正な意思決定プロセスがあるでしょうか?