心と経営の力学 【No.42】 値上げ交渉は怖いが、チャンスでもある
金属加工会社のM社長は、この日3回目の顧客との価格交渉に臨んでいました。
何時もの女性事務員がお茶を出してくれます。
そして、一言「毎回、社長さんが来るたびに"熱気"みたいなものを感じていましたが、今日は一段と凄いですね」
その価格交渉の結果がどうなったかは、後ほど紹介しますが、
その前にちょっと価格交渉にあたって、事前にどんなことを検討すればよいかをお話します。
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原材料や食品など、さまざまなモノが相次ぎ値上げされていますが、「このままじゃマズイ」、「流石にもう限界だ」・・というように感じ、値上げ交渉を検討している方も多いのではないでしょうか?
一方で、値上げ交渉には、大きな抵抗感を感じると思います。
それは、そうですよね。
「もし、取引きが打ち切られたら・・・」
「もし、お客さんが他社、他店に移ってしまったら・・・」
「もし、、、、 」・・次々と悪いことが思い浮かんできます。
こういったネガティブな考えが巡ったり、恐れを感じるのはある意味自然な反応です。
私も、何度もドキドキしながら値上げ交渉してきました。特にリーマンショックの時は重なりました。そして、5割アップの価格交渉に成功したことあれば、交渉が失敗して契約を打ち切れられたこともあります。
そこで、今回はそれらの経験も踏まえ、価格交渉の前に検討すべき3つのポイントについて紹介します。
1)正確な原価を把握する
2)提供価値を見出す
3)自助努力の余地を探す
それでは、早速見ていきましょう。
1)正確な原価を把握する
「原価計算ならちゃんとしているよ!」という方もいると思いますが、案外見落としがちなのが、段取り、梱包、検査、運搬、発送、償却費・・・といった付随コストです。
また、特に長期にわたり生産してきた製品の場合、時代とともに上昇してきたコストが反映出来ていない場合が見受けられます。
加えて、ピーク時に対し生産量が半分、1/5、1/10・・と大幅に減っているにも関わらず、売価は当時のまま、収益が大幅に悪化していたなんてもケースも多くあります。
こんな状況を避けるためも、現在の生産条件で今いちど原価を正確に積算してみるとよいでしょう。
ちなみに、「製品数が多くて大変だよ」なんていう場合は、先ずは主要顧客の売上トップ3 / ワースト3について実施してみてください。いろいろと見えてきます。
またこの時、生産数量の変化をグラフに纏めておくと、後あと顧客交渉する際にとても役立ちます。
2)提供価値を見出す
私自身の価格交渉が上手くいかなかった例を思い出してみると、価格のみで比較検討された場合が殆どです。この時の比較対象は、他社の場合もあれば、当社の従来価格の場合もあります。
何れにしても、値上げ交渉するわけですから、価格だけで比較された場合はかなり不利になります。
これを避けるには、出来るだけ別の「提供価値」も引合いに出して交渉する必要があります。
「提供価値」を見つける方法は、次のような表を用いて明らかにしていきます。なお、ここで、最右列の競合②(代替)は、顧客が購入目的から考えて想定する代替品です。
例えば、健康食品なら、顧客の目的は健康を手に入れることです。このため、健康食品を提供する同業者が競合になるのはもちろん、フィットネスジムや、ヨガ教室を顧客が想起することもあります。すぐに代替品が思い浮かばなければ一旦空白でも構いませんが、値上げをきっかけに顧客が別の方法で目的を満たそうと考えるのはよくあることなので、一度どこかで検討するとよいでしょう。
そして、この表が纏まったらところで、もう一歩踏み込んで考えて欲しいのが、これらの特徴を踏まえて顧客に提供している価値「顧客ベネフィット TOP5」です。
私たちは、提供価値を考える時に、直接提供しているものに着目しがちですが、顧客が本当に欲しているのはベネフィットの方です。
例えば、ドリルを買う顧客が本当に欲しいのは「ドリル」ではなくて「穴」だったりします。
同様に、短納期対応は、顧客の倉庫スペースの圧縮や在庫削減(キャッシュフローの増大)に繋がったり、冷凍食品は、調理時間の短縮に伴う人件費の抑制や食中毒リスクの低減に繋がったりします。
ちなみに、この顧客ベネフィットは、顧客自身も自覚できていない場合があります。また、経営者が自覚していても、購買担当者は自覚していない(経営上の上位目的を理解できていない)なんてケースも多々あります。
このため、当社側から積極的に顧客にベネフィットを伝えていくことが大切です。
一方、ベネフィットが見つからないという場合は、さきほど挙げた特徴に対し「つまりそれって、顧客にとって何がいいの?」という質問を繰り返してみてください。
そして、顧客がそれを聞いた時に「たしかにそうだよね~」と感心したり、思わずニコッとなったりするところまで深堀げられたらOKです。
こうして、顧客ベネフィットを見つけて積極的に伝えていけば、価格だけを土俵に上げられて単純比較されるようなことを避けられます。
3)自助努力の余地を探す
最後に最も重要なのは自助努力できる余地が本当にないか? 再検討してみることです。
- 段取りや製造時間を短縮する方法は本当にないか?
- 作業や検査を自動化できないか?
- 運搬や発送を纏めて出来ないか?
- 包装を簡素化できないか?
- キャッシュレス決済にして請求書発行の手間を省けないか?
・・等々
この機会にもう一度検討しています。何かよい方法が見つかれば、値上げしなくても済むかもしれませんし、自助努力をしつつ値上げに成功すれば収益力がアップします。
先日ニュースを見ていたら、カップ麺の値上げが相次ぐ中で、「"ペヤングソース焼きそば"は徹底した社内オペレーションの見直しによって価格を据え置いた」ことが話題に取り上げられていました。
こうした話を聞けば、顧客の印象はグーンとよくなります。この先、止むを得ず値上げするようなことになっても、「あの会社は十分に努力をしてきた上での値上げだから、まあしょうがないよね」と、顧客の納得感も高まるハズです。
このように自助努力を徹底すれば、コスト競争力を上げたり、顧客の印象をよくすることができます。
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以上、ここまで値上げ交渉の前に検討すべき3つのポイントについて紹介してきましたが、如何でしたか。
冒頭のM社長にも、このうちの幾つかを実践してもらいながら、価格交渉に挑んでもらいました。
そして、3回目の顧客交渉で双方によいかたちで話が纏まり、今期(4/1)以降の価格改定の合意してもらえました。
お客さんにとっても苦労して稼いだ大切なお金です。それを使う価格交渉ですから、こちらも必死になって事前検討する必要があります。
一方、事前検討をキッチリすれば、これまで見落としてたことに気づき価格交渉の材料が見出せたり、あらたな提案が生まれたりもします。
そして、自社が提供している価値や価格構造への理解も深まるので、自信を持って価格交渉に臨むことが出来ます。
貴社では、価格交渉の機会をチャンスと捉え、必要な事前検討を十分していますか?
もし、質問や分からない点があれば、お気軽にこちらまでメッセージください。
最後までお読みいただきありがとうございました。