心と経営の力学 【No.47】 高い目標を実現する「OKR」
ある1つの目標に向かって全社員の足並みが揃ったら、もっと生産性が上がると思いませんか?あるいは、目標がもっと前倒しで実現できると思いませんか?
1960年代の初頭にケネディ大統領は「10年以内に我々は人類を月に送り、そして無事に生還させるというとてつもない目標」を発表しました。発表当時は、何の根拠もありませんでしたが、
「我々は月へ行くと選択した!我々は月へ行くと選択した!この10 年のうちに月へ行くと選択し、そのほかの目標を成し遂げることを選択した。それがたやすいからではなく、困難だからだ。何故ならこの目標が、われわれの最高の能力と技術を集め、その真価を測るに足りる目標だからだ。何故なら、この挑戦は、我々が進んで受け入れるものであり、先延ばしにすることを望まないものであり、我々が、他の事と同様に勝ち取る意思があるものだからだ。」
と力強く宣言し、多くの人に感動を与え、そして実際に多くの人を動かし、遂には1969年に実現しました。
人類初となるような、ここまで高い目標でないまでにしても、一見実現が極めて難しい、でも実現出来たらワクワクするような目標を達成するための管理手法があります。
OKRと呼ばれる手法で、Objective(目標)& Key Result(主要な結果)の略です。
目標管理手法にも複数ありますが、日本で現在もっとも普及している「MBO」(目標による管理)と比較することで違いを理解しやすいと思うので、先ずは次の表をご覧ください。
MBOについては、ご存知の方も多いと思いますが経営(必達)目標をブレイクダウンして部門目標に落とし込み、さらに部門目標に沿った個人目標を各自が決めて、上司と合意した上で達成度を定期的に管理する手法です。ドラッガーが提唱した手法で、目標合意後の進捗や実行は本人の主体性に任せるというのが根本思想のため、レビューの頻度も1年、あるいは半年毎といった長いスパンで行われることが多いのが特徴です。また、達成度は基本100%を目指すことが求められます。
一方、OKRの方は、必ずしも単年度で100%の達成を目指す必要はありません。達成見込みが、仮に60%~70%でも問題ありません。大事なのは、心理的抵抗感は多少伴いつつつも、その達成を想像するとワクワクするような高いストッチ目標を1つ設定します。
例えば、この分野で売上No1になる、この地域で新規契約率No1など、実際の業績にも大きく反映されるような目標を設定します。あるいは、今いる社員で生産性を20%あげるといった目標でも構いません。
そして、目標を設定したら、その実現を下支えする主要な結果を設定します。
例えば、こんな感じです。
O:3年以内に、自社商品の販売比率を半分以上にするため、シームレス縫製と言えば「クリシタ」と業界で言われるようなブランド会社になる。
KR1:2023年6月までに関連する展示会3つに出展する。
KR2:2023年3月までにディーラーを30店舗にする。
KR3:2023年3月までにネット販売の売上を50%以上伸ばす。
ここで大事なのは、KRの設定ですポイントは3つあります。
1つ目は、KRの数は3つ程度とし、多くても5つまでとします。
2つ目は、全てのKRが達成されれば、自動的にOが実現されるように設定します。
3つ目は、主観が入り込む余地がないように具体的な数値で設定します。
そして、各KRが、次の下層の目標(O)となって、さらにそれを達成するためのKR1-1 , KR1-2 , KR1-3を設定し・・・と順次、全社に展開していきます。
各部門や各担当の取組みがどのように目標と関連しているか、相互協力が必要な部分はどこかなど、人目で分かるようにツリーを構成します。
一方、目標実現の成否を分ける上で重要となるのが、運用面です。すなわち適切な実行管理を定期的にやることです。
この管理は、週次で行うのが望ましく、C(対話)、F(フィードバック)、R(承認)の3つの観点で行います。
・対話(Conversation):パフォーマンス向上を目的に、マネージャーと部下の間で行われる素直な意見交換
・フィードバック(Feedback):プロセスを評価し、将来の改善に繋げるための、同僚との双方向コミュニケーション
・承認(Recognition):大小さまざまな貢献に対して、しかるべき個人に感謝を伝える。
なお、MBOを提唱したピータードラッガーでさえ、数字だけに頼るマネジメントの限界を認めており「マネージャーが果たすべき第1の役割りは、人間関係に関わるものだ。他者との関係、相互の信頼感の醸成、コミュニティーの創出である」と語っています。
CFRを定期的かつ、適切に行うことで、人間関係は確実よくなり、信頼感も醸成されます。なかでも私は承認(Recognition)の重要性を感じています。
先ず、相手の変化をしっかり観察していないと適切な承認はできません。つまり、相手に関心を払っていないとできません。
また、日本教育による弊害も大きいですが、ダメなところは直ぐに目につく一方で、よいところに気づくのは苦手というところがあります。これが、欧米人(80%台)と比べ日本人(40%台)の自己肯定感が半分程度に留まっている大きな理由にもなっていますが、もう少し意識的に上手く行った点は何か?という点に注意を払う必要があります。
もともとOKRは、インテルのCEOを務めたアンディグローブが1970年代に開発した手法で、ムーアの法則(半導体の集積度は約2年で2倍になる)の実現を下支えした画期的な手法でもあります。それが、1990年後半になってGoogleを始めとするシリコンバレーのスタートアップ企業が取入れて成功したことで一躍脚光を浴びました。
そして、メルカリやランサーズなど、日本のスタートアップ企業でも導入が進みはじめました。労務行政研究所の資料によれば、現在日本でも大分普及が進み導入済が17% 、導入予定・検討中が40%となっています。(MBOと併用している企業もある)
ちなみに、中小企業の場合、受注しない案件を明確にする、やらならないことを明確にするために導入しているという企業もあります。
なお、最初から全社展開しようとするとハードルが高いので、先ずは経営幹部のみ、あるいは管理者のみから導入してみてもよいかもしれません。関心があれば、ご連絡ください。
また、もう少し詳しく知りたいという方は、OKRに関する書籍が複数出版されているので、読まれてもいいと思います。最初に読むのであれば「Measure What Matters」(日本経済出版社)がお勧めです。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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