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心と経営の力学 【No.14】 お金を掛けずに付加価値を高め、売上を伸ばすための着眼点。

社会の成熟レベルの高まりと共に消費者の多様化が一層進んでいますが、商品ライフサイクルの短期化や、価格競争の激化でお困りではないでしょうか。
 こうした状況のなか売上を伸ばすために、差別化商品の開発や新たな技術開発が有効であることに間違いはありませんが、それには多額の投資や時間が必要となることも多いでしょう。
 もし、お金をかけずに付加価値を高め、売上を伸ばす有効な手段があれば、先行して取り組んでみたいですよね。

その手段の一つに、顧客がその商品・製品・サービスを求める背景に徹底的に着目する方法があります。下の図をご覧ください。

 ところで貴社では、普段、お客様と話す時や訴求する時に「O:商品・製品・サービス」と「M:欲求や困り事」のどちらに意識の比重を置いているでしょうか。
 役割や部門によって違いもありますが、「商品やサービスそのもの」に意識が傾き過ぎている企業が多いように見受けられます。例えば、提示された図面の詳細仕様、その製品のスペック、問合せを受けた商品やサービスのみの情報提供・・・等といった具合です。
 一方で、顧客がそれらの商品やサービス求める背景には、必ず何らかの満たしたい欲求や解消したい不満・不安があります。

『全てのモノは二度つくられる』、以前コラム(ものづくりの本当の意味)の中で、あるモノ・コトが生まれる過程には、必ず「想像」と「実現」の2つの段階を経る、と話した事があります。このコラムの中では、作り手を中心に説明しましたが、買い手も同様の過程を経て購買に至ります。この2つの段階をよく理解した上で、取り立てて凄いスペックや特徴を備えないごく普通の商品を上手に販売し、売上を伸ばしている企業が幾つもあります。

皆さんがよくご存知の企業の中から幾つか紹介すると、例えば、「アマゾン(Amazon)」です。アマゾンは、何処にでもある商品を販売しているだけですが、創業から25年で世界を代表する企業になりました。創業者のジェフ・ベゾスは、創業以来一貫して「我々はモノを売る会社ではなく、お客様がモノを買う時の手間を省くサービスを提供する会社」だと語っています。
そう言われてみると、決済のし易さに加え、「他の購入者者の感想を客観情報として掲載」「気になる商品を一次保存しておける"ほしいものリスト"」「志向を分析してお勧め商品を自動表示」・・・等、私たちがモノを買いやすくするための工夫がいたるところにあります。

さらに、もう1社ご紹介すると「ジャパネットたかた」も、何処でも買える一般商品を販売しているだけですが業績を伸ばしています。この会社も、買い手の心理(背景)に徹底的にフォーカスして訴求しています。カメラを例に説明すると、カメラメーカーが性能(画素数、ズーム○倍、記録容量・・等)をメインに訴求する一方で、ジャパネットたかたは顧客が求めている事(思い出を手軽に記録したい、遠くからでも子供や孫の笑顔を逃さず撮りたい、手振れ機能や明るいレンズでどんな状況でも綺麗に撮れる‥等)を全面に訴求しています。

なぜ、このように何処でも買える商品なのに、販売する企業によって売上に差が生じるのでしょうか?

その理由は、産業材(B to B商材)であれ、消費材(B to C商材)であれ顧客に購買してもらうためには 「A:支払い意欲 > B:支払いコスト」の関係を成立させる必要があります
 ここで支払い意欲Aは、 「a1:顧客が知覚した総合的な利便性」 - 「a2:取引き・購入に伴う負担コスト」 - 「a3:使用に伴う負担コスト」 ) -「a4:購入に伴う不安・不便さ」の総和となります。
 顧客が購買を望む背景や購買に伴う活動を深く理解し、上手く活かして商談や訴求をおこなうことで、顧客の知覚する利便性が増加したり、購入に伴う不安や不便さが低減されたりすれば、商品自体は同じでも支払い意欲は高まっていきます。この結果、先の購買条件が成立し易くなります。

また、この他、直接の購買者(C1)とは別に決裁者(C1')がいる場合や、その先にさらに顧客(C2)がいる場合は、これらの関係者の背景にも徹底的に着目することをお勧めします。何故なら、彼らは直接の購買者とは別の価値観を持っていることも多く、ビジネスチャンスが拡がることが多々あるからです。例えば購買担当者が商品の単体コストを重視する一方で、決裁者・経営者はランニングコストや廃棄まで含めたトータルコストを重視するといった具合です。
 このように顧客の捉え方を拡げたことで、商談相手を変えて受注が取れた、あらたなビジネス展開のヒントが見つり別業界の新規顧客を獲得できた、といった事例が沢山あります。当社クライアントの食品メーカーS社でも、昨年この手法を使って、商品と価格は変えずに半年で売上を2割伸ばすことに成功しました。

以上のように、顧客と会話するときに意識的にその背景を深く理解する事に努め、そこで得た情報を上手く使って訴求したり、直接の購買者からさらにその先の関係者に意識を拡げることで、お金をかけずに今ある商品の売上を伸ばせる可能性が高まります。また、そのような視点を持って世の中の商品やサービスを眺めると多くのヒントも得られます。
 なお、担当者が個別に有効な情報を持っているのに、そこから先、情報を整理し、社内でうまく共有・活用できていないケースも見受けられます。

 貴社では、顧客がその商品やサービスを求める背景をどの程度理解して、事業活動に活かせているでしょうか?
 ぜひ、意識の比重を背景側にも傾けてみてください。